第355話 大阪市天王寺区東小橋のからあげ定食(こってり、並)
「ふむ、大事がなくてよかった」
先日受けた検査の結果、ピロリ菌感染の可能性が微レ存ということで念のために検査を受けるために上本町にやってきていた。
30分ほどの検査の結果は、陰性。精度が九割越えらしいので、まず問題ないということで一安心である。
除菌となれば、一週間ほど食事に気を使わねばならないのだが、それも解除。
当然ながら空腹状態で検査に来ているのだから、
「ここは少し、こってりを喰っていくか」
病院から出て少し北上すれば、千日前通りに出る。西へ行けば上本町、東へいけば鶴橋だ。
交差点に着けば信号が変わり、とりあえず北へ渡る。そして鶴橋方面にあるけば。
「そうだな、ここがあったな」
正に今のニーズにあった店に行き合ったのだから、これはもう喰らうしかあるまい。
検査で遅くなって半端な時間なのもありすぐに入れ、ゆったりした店内の中央に並ぶカウンター席へ案内される。
「惣菜コーナーは流石にやってないか」
ここは確か、付け合わせの惣菜が食べ放題になっていた気がするのだが、このご時世だからかそこは閉まっているようだ。
水を飲んで一息吐き、メニューを観れば。
「冷麺! そういうのもあるのか」
この店のスープで冷麺なら、それはとても気になる。
だが、店内に貼られた写真を見て、
「あかん……」
どうして人類は、冷たい麺にはあの植物を入れたがるのだ? しかも、ここのはごっつく切ったあの植物がほぼメインの具材となっている。これは、抜いてもらうとかそういう次元ではない。
つまり、だ。
「これは、私にとっての食べ物ではなかったのだ」
危険を冒す必要などない。安心の食材に行くのがいいだろう。
そういう訳で。
「からあげ定食、こってり並で」
と、定番の注文を済ませる。こういうのでいいんだよ、こういうので。
注文を済ませば後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。とはいえ、現在はイベントの谷間なので、おでかけを仕込む程度で終わり、週刊少年チャンピオンでも読んで待つとしよう。
と。急に三人ほど人が入ってきた。
客かと思ったがそうじゃない。
全員、四角いバッグを背負っている。全部、違うサービス名。
奥の厨房を見ると、一人の店員が客数の割に慌ただしく動いているのが見える。
次々、袋に入れた食事を盛って一人ずつ渡していく。
と、また来た。
今度は、定番のサービスだ。
三人を捌き、更に捌いたら。
また、来た。こんどはあのサービスか。
なんだ、このご時世、宅配利用率が上がったにしても、ちょっと大人気すぎないか? 思い付く限りのサービスがやってくるぞ。
客数の数倍の麺を必死に上げているのが見える。これは、注文の品がやってくるのに時間が掛かりそうだが、仕方あるまい。
そこから更に数個の注文を宅配に渡したところで、店内のメニューがやってきた。
「おお、こってり、だな」
スープは見るからにどろり濃厚。沈んだ中細ストレート麺は上の方しか見えない。具材は、メンマとネギとチャーシュー。定番安心の具材。
定食のごはんは脇に二枚の沢庵が添えられているのが彩りとしてもいい。刻みキャベツを添えられたからあげは、思ったよりもボリュームがありそうだ。
と、
「ニンニク薬味お願いします」
忘れない内に持って来た店員に頼んでおいて、食事に取り掛かる。
「いただきます」
まずは、スープだ。
「ああ、こってり。生き返る味だ」
気にせずこってり喰えるというのは、それだけで幸せなのよな。続いてからあげを囓れば、生姜の利いた素朴な味わい。付け合わせのフレンチドレッシングのかかったキャベツの酸味と合わせるといい塩梅だ。
もう、細かいことはいい。
麺を喰らい、ご飯を喰らい、からあげを喰らう。あの植物の入ってくる余地のない、安心安全の食事を楽しむのだ。
店員が持って来てくれたニンニク薬味を徐に入れて混ぜれば、麺はコクをます。なくてもそれなりだが、この薬味の一押しはやはり入れるが正解だなぁ。
ネギとメンマのアクセント、薄切りながらしっかり豚を主張するチャーシュー。薬味で引き立つこってりでそれらを頂く至福。更にからあげと米まであるのだから、もう、無敵だ。
しかし、無敵時間は長くは続かない。
「もう、終わりか」
米は尽きた。からあげも尽きた。残ったのは、命のスープ。
丼を傾けても飲むのが難しいそれを、レンゲで最後まで追い駆けて味わう。
最後は丼からこそぎ落とすようになるのもまた、趣だ。
全てを胃の腑に収めたならば、最後に水を一杯飲んで一息入れ。
「ごちそうさん」
店を後にする。
「さて、帰るか」
ここからだと、鶴橋が近い。東へと、足を向ける。
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