第353話 大阪府茨木市新庄町の塩和え麺200gニンニク野菜マシマシアブラカラメ豚増し

「面白いシステムだったな」


 線を引いて図形を創って魔法を使ったり、その図形がダメージソースになったりという独特なTRPGを楽しんだ帰り道。


「腹が、減ったな」


 頭を使えば腹も減る。


「そういえば、今、限定があるんだった」


 茨木市まで出てきたのだ、せっかくだから喰って行こう。


 かくして、中央通りを東へ向かい、阪急の駅の手前で右折。そのまま東西通りにぶつかったところに、目的の店はあった。


「そこそこ並んでいるが……」


 十人以上の待ちだが、経験上、比較的回転は速い。一時間はかからないだろう。


「待とう」


 そういうわけで店内に入り、食券を確保。今日は、当然限定の塩和え麺だ。麺は並は300gだが、無理せず200gでいいだろう。青い洗濯挟みで食券を挟む。


 だが、だ。


「いっちゃう、か?」


 タンパク質は大事だ。ビタミンBが豊富で身体にもいい。だから。


「ポチ、っと」


 追加で豚増しの食券も確保する。大丈夫だ、問題ない。


 一旦店外に出て列へ入れば、店員の食券の確認。こうして先に調理を始めてくれるから、回転がよいのだろう。TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指すような小説を読みながら待てば、予想以上に開店が早く、すぐに店内の待機席へ。


 厨房から客に供されるあれこれの視覚情報で食欲を掻き立てられながら待つことしばし。


 席に案内されたなら、セルフのおしぼり箸レンゲ水を確保。冷たい水はグイッと飲んでお代わり。人心地ついたところで、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、過去のあれこれのイベントだが、中々勧められていない。とりあえず、おでかけを仕込んでいると、もう、できあがりそうな気配。


 ゴ魔乙を終了してほどなく。


「ニンニク入れますか?」


 とくれば。


「ニンニク入れてください」


 先に有無を答え、


「ニンニクヤサイ増し増しアブラカラメ」


 とコールを済ませる。


 手際よく盛りつけられ、丼が付け台に置かれる。


「ほぉ」


 山と盛られた野菜の上には、ニラとゴマが塗されているのが視角的にもアクセントになっている。麓の半分は肉の山。そして、たっぷりの刻みニンニク。


 カウンターにおろしながら眺めれば、中々の壮観だ。


「いただきます」


 和え麺なのでまぜるべきなのだが、とっかかりがない。


 まずは野菜を地道に食おう。


「ふむ、いい塩梅」


 ほどよく野菜の甘みが感じられて、そのままでもいける味わいだ。しばし喰い進め、どうにか麺に辿り着いて引っ張り上げれば。


「おお、なるほど、塩、だ」


 柚子らしき風味を感じさせる塩だれはギュッと豚の旨みを引き立てて、それが麺に絡んできて、幸せな心地だ。


 野菜をこぼさないように適宜食しつつ、麺を引っ張り出して豚とニンニクと野菜を沈めてまぜる。和える。


 見た目はぐちゃっとしているが、塩だれが全体に行き渡って、どこから喰っても旨い。ニンニクも風味として活きている。さりげなくゴマの風味もいい。


 麺野菜、そして、豚。タレに浸かっているものと、浸かっていない部分があって、タレの塩気が加わって味わう部分と、素朴に豚を味わう部分とがある。


 正直、多い。が、夏の暑さに負けないために、こうやって肉を貪るのも悪くない。


 麺を野菜を、そして、豚。


 豚。豚。


 気がつけば、丼には豚の塊が二つほど。最後に喰った麺の下に、もう一個あったのだ。


 なんというサプライズ!


 とはいえ、いくしかない。


 増したからには、喰わねばならぬ。


 己のもたらしたことの責任は己で取るのだ。


 齧り付く。咀嚼する。


 口内に広がるタレの絡んだ豚の暴力的な旨み。


 嚥下する。


 齧り付く咀嚼する嚥下する。


「ふぅ」


 少々ヘビィではあったが、麺を200gにしてあったのでどうにかいけた、か。


 最後に、水を一杯、いや、二杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に戻し、おしぼりを入り口の籠に放り込んで店を後にする。


「少し、歩くか」


 目の前の阪急ではなくJRで帰るべく、西へと進路を取る。

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