第347話 大阪市天王寺区舟橋町の冷やおろし肉ソバ★醤油麺大盛りからあげトッピング

「何か喰って帰るか」


 仕事の後。自主的に受けている検査の予約を取った帰り道。


 上町台地を下って、鶴橋方面へと向かっていた。この辺りは、何かと麺屋が多い。気になる店はいくつかあるが、どうにも、乗らないので見送り続けていた。


 気がつけば、鶴橋の駅も近いところで。


「夏らしいメニューだな」


 カプサイシンを感じさせる店舗の前に足を止める。しかも、今は冷たいメニューがあるようだ。ありがたいことに、冷たい麺にはなぜかついてくるあの緑の植物はいない。これは、いいぞ。


 よし、この店に決めた。


 ちょうど客が出てきたところで、席の準備ができ次第入れるようだ。


 少し待てば案内され、真っ直ぐなカウンター席の真ん中辺りに着く。


 丁寧な応対に答えつつ、注文の団になれば、


「冷おろし肉そばを3辛で」


 と注文する。限定メニューの冷製麺だ。辛さは基本が2らしいので一つだけアップ。


 ただ、それだけでは寂しい。


「からあげをトッピングで……麺は大盛りで」


「ごはんものはよろしいですか?」


「はい、以上で」


 誘惑に駆られたが、麺を大盛りにしたのだから米は控えて注文完了だ。


 となれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、魔導書教団側を描くシナリオが展開している。タ……マリコとネ……ロータスの出会いなどなど、楽しみなところである。


 おでかけを仕込み、想い集めステージを周回して、それなりに稼いでいれば時が経つのは早い。ちょうど二度目の出撃を終えたところで注文の品がやってきた。


「おお、いいねぇ」


 冷たい丼の上には、豚しゃぶ、刻みネギ、大根おろし、大きなからあげ。隙間には赤い粉。滲むスープも真っ赤。麺は見えない。


 夏らしい感じじゃないか。


「いただきます」


 箸を丼に入れて、麺を引っ張り出す。しっかりしまった中細麺は、出汁の風味を纏ってやって来る。味わい的には、焼き肉やとかにある冷麺的な趣か? 土地柄にもあっている。思ったよりも辛味は感じない。


 そのまま、豚を囓る。薄いがしっかり歯応えを感じてそこにおろしやらネギを絡ませるのがいい。おろしも加わって、辛味のある豚しゃぶ+麺の風情。


 なのだが。


「さて、これはどうしたものか?」


 冷たい中に、熱々のからあげである。囓ってみれば。


「うん、下は冷たいな」


 だが、それでも旨い。元々、冷めても旨いタイプのからあげだから、これはサクサクの揚げたての食感と、冷たいスープを吸ってしっとりした食感の双方を楽しめば良さそうだ。スパイシーな衣の味わいが、いいアクセントでもある。


 からあげを囓り、その風味で麺を豚を喰らう。


「いや、もう一声何かが……」


 席を見回せば。


「あるじゃないか」


 刻みニンニクの容器を見つけ、備え付けの小さじ一杯程度をぶち込んで混ぜる。


 改めて喰らえば。


「ふぅ、やはり、ニンニクは合う」


 唐辛子とニンニクの組み合わせは鉄板だろう。更には、生姜も入れてみれば豚との相性がいい。


 からあげを食い尽くしてスパイシーさは終わり。


 お好みでと添えられてきた酢を一回り。


「は~さっぱりさっぱり」


 酢が入ると、本当、さっぱりしてしまうな。


 ネギとおろしにまみれた麺を、豚を、サラサラとかき込んでしまえる。


 そうして、薬味がまだ沢山残ったスープだけが残る。


 ネギは食い尽くそうと、レンゲで掬って追い駆けたのだが。


「い、痛い……」


 唐突に、口内に広がる熱。


 そうか。


「冷えてて、気づかなかった、だけか」


 唐辛子にニンニクにおろしにネギに。辛味のあるものばかりだ。


 ほどよくスープの冷気が収まったところで一気に来た。


 久しぶりだ。3辛でも、十分辛い。


 とはいえ、せめて固形物は胃に収めよう。


 ネギとおろしと麺の切れ端を食いつくし。


「汝、完飲すべからず」


 戒めを唱えて、レンゲを置き。


 最後に、水を一杯……いや、二杯呑んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて、


「ありがとうございました」


 店員の気持ちのよい挨拶を聞きながら店を後にした。


「さて、これは、何か胃を労らないといけないな」


 そんなことを考えながら、駅へと向かう。





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