第267話 大阪市浪速区難波中の黒胡椒らーめん
「なんだか空しい、な」
このようなご時世にあっても、諸事情で出社が続く今日この頃。
職場の人以外と合うことのない生活に、少々気がめいってくる。
だが、病は気から。
外出せざるを得ない状況なのだから、帰り道で好きなものを買って何か旨いものでも食ってリフレッシュしても罰は当たるまい。勿論、マスクと手指のこまめな消毒など、最低限の対策は行った上で、だ。
「……さすがに、人が少ないな」
なんば駅に降り立つも、人通りは少ない。
感染症対策のアナウンスが流れる大阪メトロの構内は、近未来ディストピア映画のような雰囲気を醸し出す。
そんな中、当分は閉店状態のなんばCITYを抜け、オタロードへ入ってすぐ。
ソフマップの前の店で、足を止める。
「そういえば、限定まだ喰ってなかったな……」
全く客のいない店内にやっているか不安になるが、やっているようだ。
早速、限定の食券を買えば、手近なカウンター席に案内される。
「麺大盛できますがどうしますか?」
「大盛で。後は普通で」
という感じで、好みを伝え、ギリギリライスバーがまだやっていたので米の確保に。アルコール消毒をしっかりしてしゃもじを取って、茶碗もアルコールで拭いてから米を盛る。できることはやるのだ。
そうして、席へ戻れば、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在の五周年記念イベントは、それなりに頑張っているが、さすがにボーナスがないとキツイ面もある。リリーステージを延々回す。今回、五周年記念ということで、タイトルが『5thシックは魔法乙女』となる演出は、リリーのダジャレになる、つまり、今回のメインはリリーだと信じている。
そんな感じでゴ魔乙に興じていると、注文の品がやってきた。
「おお、濃い、な」
チョコレートのような色合いととろみのスープに、チャーシューとほうれん草とウズラ玉子と刻み葱。どんぶりに沿うように三枚の大きな海苔。いい見た目だ。
「いただきます」
早速麺を啜れば。
「これはこれは……いいぞ」
実のところ、冬の限定メニューなのだが、こってり豚骨濃厚味噌に、黒コショウのピリリとした刺激が加わると、四月ながら肌寒い日に体の中から温まる感じでとてもいい。
その味が残る状態で、ご飯を頬張れば、更に幸せな気分になれる。そうだ、これは広義に味噌汁なのだから、味噌汁とごはんが合わないということがあるだろうか? いや、ない。
麺を啜り、チャーシューを齧り、ホウレンソウで野菜を摂取し、仕上げにスープをたっぷり吸った海苔で米を包んで食べる。一連のコンボは多幸感を脳に叩き込んでくる。
だが、ここで忘れてならないものがある。
感染症対策には、
「にんにく、だな」
調味料入れから、おろしにんにくを付属の匙に一杯……いや、もう一杯。
二杯入れて、かき混ぜる。
これで、ウィルスなんてイチコロだ。
そうして、スープを啜れば。
「おお、味噌も負けてない……これはいいぞ」
通常は二杯も入れればニンニクラーメンになりがちだが、さすがに見た目チョコレートのこの濃厚味噌、味の深みが違う。ニンニクを呑み込んで旨みが増すにとどまっている。つまり、バランスがいいニンニク豚骨味噌味だ。いや、そこに後から追いかけてくるピリリとした黒胡椒を忘れてはいけないな。
とにかく、ニンニクがポテンシャルを更に引き出し、ウィルス対策にもなり、もう、なんだ、最高だ。
麺を啜り、チャーシューを齧り、ホウレンソウで野菜を摂取し、仕上げにスープをたっぷり吸った海苔で米を包んで食べる。
麺を啜り、チャーシューを齧り、ホウレンソウで野菜を摂取し、仕上げにスープをたっぷり吸った海苔で米を包んで食べる。
海苔が二枚あったので、二連でコンボを決めれば、脳に幸せが満ち溢れてくる。これなら、免疫力も高まるだろう。
後は、もう、考えてはいけない。
タイミングを逸したウズラ玉子を齧って景気を付け、麺麺チャーシューほうれん草麺麺米米スープ米スープ米米麺スープ米米麺麺と、炭水化物と味噌のコラボレーションを存分に楽しむ。
やがて。
「もう、スープだけか」
だが、この店では最後まで味わうのが礼儀。
レンゲで掬ってはズズズと行く。
改めてスープを味わえば、ガッツリ入れたニンニクよりも、黒胡椒の刺激が残るのが面白い。
そんな風に思いながら。
残り少なくなったところで丼を持ち上げ。
ごくごくと飲み干す。
と。
店員がやってきてサービス券をくれる。
こちらから声を掛けずに済んで手っ取り早くていい。
最後に、水を一杯飲んで一息ついて。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、買い物して帰るか」
人気の少ないオタロードを、歩む。
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