第266話 大阪市中央区難波千日前の限定2
「非日常が日常になる、か」
まさか、疫病で社会機能が抑制されるパニック映画のような世界をリアルに体験するとは思っていなかった。
諸事情で出勤を余儀なくされる日々が今しばらく続く中、小まめに手指を消毒して日々を過ごしていた。
仕事を終えた帰り道。
買い物をする必要があったので、難波の地に降り立ったのだが。
「腹が、減ったな……」
外食もあれこれ言われるが、個人でカウンターで喰うようなところなら、どうにかなるだろう。
ならば。
道具屋筋から、一つ東の筋を南へ進めば、目的の店はあった。
「さすがに列はできていないな」
18時の数分前。先客は1人だけ。間を開けて、後ろに並ぶ。
道行く人も少ない。
静かに佇んで待てば、やがて店が開く。
しずしずと店内へ入り、食券機へと。
「ここはやっぱり限定だな」
というわけで、食券を確保し、食券機横の消毒ジェルで手指をしっかり消毒してからコップを確保して座席へと。当然のように、先客と間を開けて誘導される。
席に着けば、
「ニンニク入れますか?」
「入れてください」
と、作法にのっとって告げれば、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
現在は5周年記念イベント中で、ようやく五悪魔学園乙女のターンだ。勿論、水の悪魔を応援する。
おでかけを仕掛け、出撃をしてと充実した時を過ごしていれば、時の流れは速い。
注文の品がやってきた。
「おお、これは免疫力爆上げだ!」
積み重なる野菜の山には、オニオンチップと太ネギのぶつ切り。頂上にはレモンスライス。麓には刻みニンニクと丁寧に山に添えられた薄切りの豚肉。どんぶりの隅からのぞくスープの赤も加えて彩り豊か。
目にも楽しく、免疫力を高めるものが沢山。いいじゃないか。
「いただきます」
まずは、野菜をスープにつけていただく。
「なるほど、麻辣」
今回の限定は麻辣麺である。シビ辛というよりは旨辛という感じか。
そのまま、麺を引っ張り出して啜れば。
「お、来た……」
しびれる麻の味わい。うんうん、麻辣を名乗るなら、こうでなくちゃ。
しばし麻辣の刺激を楽しんだところで。
「レモン絞るか」
スライスを絞って振りかける。意図的に豚の一枚にかけて齧れば、爽やかな旨み。
ここまで来ると、こぼす心配もなくなっていたので、全体を混ぜ合わせてモリモリいただく。舌の痺れが心地よくなってくる。
食べ応えのある麺や、存外入っているシャキッとしたキャベツ。ネギとチップの味わい。食の楽しみも免疫アップに効果があるだろう。
「さて、そろそろ調味料を使うか」
おもむろに魚粉を手に取り、豚に掛けて喰う。
「魚介豚……相性いいなぁ」
続いて、胡椒。
「ワイルドだ」
豚自体は特に味付けがなく淡白なので、何色にも染まるのだ。基本は麻辣だが、調味料を直接いくのもまたおかし。
スープを啜れば、シビ辛にニンニクの旨みもガツンと馴染んでいる。
そのスープでいただく麺と野菜と豚が旨くないわけがない。
無心で刺激に身をゆだねる。
食の幸せだ。
やがて。
「もう、終わりか……」
具材も麺も喰い尽くし、スープが残るだけの丼。
レンゲでしばし追いかけるが、汝完飲すべからず、だ。
名残惜しいが。
最後に水を一杯飲んで切り替え。
食器を付け台に戻し。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、買い物して帰るか」
オタロードへと、足を向ける。
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