第261話 大阪市中央区難波千日前の賄い味噌

「今日は冷えるな……」


 仕事終わり。気温の上下に釣られてか、はたまた世相を反映して楽しみな予定が消えていくストレスゆえか、どうにも調子が出ない。


 こういうときは。


「あったかいものを喰って帰ろう」


 ということで、私は御堂筋線なんば駅に降り立っていた。


 南改札を出て南海方面へいつも通り向かおうとすると、


「お、なんか風景が違うぞ?」


 短い階段がなくなりスロープとなって新鮮な景色が広がっていた。


 万物は流転する。ヘラクレイトスの『自然について』だな。哲学書架で禁書化して因果鍵コーザルキーを苦しめたのかどうなのか。


 いや、それはどうでもいい。


 私は、栄養を摂取しに向かっているのだ。


 地上一階へ上がり、途中で左に折れて外に出れば、左手に無印とLOFTの入ったビルが見える。


 そこから直進して道具屋筋に入り右へ、業務用のスーパーの南側で左折。


 最初の角を右に曲がれば、目的の店はあった。


「そうか、最近は通し営業だったか」


 開店時間前は列ができていることしばしばだが、通し営業でこの時間も客が回転しているため、すぐに入れそうだ。ありがたい。


 入って左手の食券機へ向かい。


「あったまるなら、味噌って感じかねぇ」


 なんとなく、味噌は寒い日のイメージがある。温まるなら、これがいいだろう。


 食券を購入し、セルフのコップを確保して、厨房をコの字に囲むカウンターの角席に座る。


「ニンニク入れますか」


「入れてください」


 マシはないので注意な。


 これで、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は学園乙女のターン。カレンとルベリスが過去を乗り越える物語。エリオ、なんだかんだで主人公していてよい。デコピタも、ストーリーと大きく関わってきたし。


 でもまぁ、久々に新しいリリーが出てイベントボーナスもあるし、軽くボーナスステージに出撃しておこう。有利属性は火だけども、リリーを始めボーナスのある使い魔で固めて出撃。


 リリーのサポートスキルでボスを瞬殺し、ノーダメージボーナスのエクストラボスも倒し、想いボーナスをがっぽり確保したところで、盛り付けが始まっていたので終わりにする。


 ほどなく、注文の品がやってくる。


「ふむ、少し大人しくなった、か?」


 丼の上にこんもりと盛られたもやしとキャベツ。チラされたコーンが味噌ラーメンンの空気を醸す。隅に滲むスープは褐色ながらどろり濃厚脂塗れ。野菜に埋もれるように、大きな豚の肉塊が二つほど。


 うん、大人しいと感じたのは気のせいだな。


「いただきます」


 まずは、スープをば。


「ヌルリヌルリ……」


 そう形容したくなるオイリーなスープ。というか。


「混ぜないとな」


 完全に上澄みの脂だ、これ。


 ということで、野菜を沈めて麺を引っ張り出しつつ、しっかりとまぜ。


 改めて麺を啜る。


 太めで平めのこの手のものにしては柔目の、それでいて食べでがある麺は、味噌と豚と脂の味わいをしっかり纏っている。それをズルズルと啜り食べ進めるのは中々心地良い。そこに、シャキシャキめのモヤシとキャベツとコーンの食感を合わせるのもいとおかし。


「これだけで立派な一品だよなぁ」


 満を持して、ごつい豚を囓る。柔目だが、食べ応え抜群だ。オイリーなスープに脂身がプラス。これは、凄いぞ。


「ここでそろそろ調味料を使うか」


 一通り楽しんだところで魚粉をパラパラと。


「う~ん、和の味わい」


 魚介と味噌だと、日常的な味噌汁的な味わいに近づくが、こんなにオイリーな味噌汁を毎日食べたら内臓脂肪が大変なことになりそうだ。


 更に、一味と胡椒もぶっかけ、ヌルリとした食感にピリリとした刺激をプラス。


 もう、こうなれば食の勢いは止まらない。


 モリモリと喰う。


 野菜も豚も麺も。


 バクバクと本能に任せて喰う。


 じんわりと、スープに溶け込んだニンニクのパンチも効いてくる。


 さすれば、丼の中身は風前の灯火。


 あっという間に固形物はなくなり。


 コーンを追い駆けて掬い取り。


 混ざってきたにんにくの欠片を囓って刺激を楽しんだりしつつ。


 終わりの時を受け入れよう。


 水を一杯飲んで一息。


 食器を付け台に戻して、


「ごちそうさん」


 店を後にした。


 暖かく腹と心が満たされた私は、ふらりとオタロード方面へと足を向ける。

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