第255話 大阪市中央区日本橋のラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ魚粉)

「どうにも調子が出ないな……」


 休みの谷間の月曜日。ちょっと日曜に飲み過ぎてしまったのが悪かったのか、二日酔いというよりは、単純に疲れで体調が微妙だった。


 このまま調子を崩しては、折角の火曜の休みが台なしになってしまう。


 こういうときは。


「喰うしか無いな」


 というわけで、1月中は改装中でずっと2月をマッチョった店を目指すことにした。


 御堂筋線なんば駅の南側からお馴染みのコースで道具屋筋に出、スーパーの横を左折。


 途中の公園を南側に突っ切り、東を目指せば目的の店、だが。


「並んでいるな……」


 開店直前の店の前には、十人を超える列ができていた。


 だが。


「今日はもう、ここの口なんだ……」


 何より、健康のために来たのだ。この程度の列なら並ぼうじゃないか。


 列に入ってからもポツポツと後ろに人が増えていくのを感じつつ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。季節柄、バレンタインイベント開始のようだ。


 それに合わせて、イベントシーンを観たり、説明を読んだりしている間に、開店時間となった。


 食券を買いながらでゆっくり進む列についてしばらく。店に入れば。


「席が減ったな……」


 改装の結果、食券機付近まで延びていたカウンターが短くなり、待ちようのベンチが据え付けられていた。入口側にあった給水器は奥に移動したようだ。


 そんなわけで、基本のラーメンの食券を確保しつつ、ベンチで待つことになった。


 さっそくイベントステージに挑んだりしつつ待てば、先に麺量とトッピングの確認があったので、


「麺は並で。ニンニクマシマシヤサイマシマシカラメ魚粉」


 とサクッと注文を済ませる。


 待つ間にゴ魔乙のAPも尽き、ジャンプを読んで過ごせば、チラホラと席が空き、30分もせずに席に着くことができた。


 奥側で右に曲がって3席あるカウンターの角の席は、


「お、給水器横か」 


 水が入れやすくていいな。


 改めて麺量トッピング変更の有無を確認され、


「このままでいです」


 と食券を出せばあとは待つばかりだ。


 ジャンプを読もう。『魔女の守人』のナータ、とてもいい眼鏡侍女で眼福である。


 などと癒やされていると、注文の品がやってきた。


「ふむ、こういう感じか」


 丼の口が大きくなったので、量はあるがマシマシの山は低めに見える。その上には魚粉。麓には、無造作にごつい肉の塊と、大量の刻みニンニク。


 うんうん、健康的な見た目じゃないか。


「いただきます」


 箸とレンゲを確保し、丼へ向かう。


 まずは、野菜をスープに浸して喰えば。


「ああ、この味……」


 この手の麺は色々あるが、やはりこの店の味はよく馴染む。豚と醤油のガッツリしたところにやや甘めの味わいがいい。


 にんにくをほどよく混ぜ込んで、パンチとインパクトをプラスすると尚善い。


 口が広いお陰で麺への導線も最初からあるので、麺を引っ張り出して啜れば、バキバキの太麺は麺喰らってる満足感が高く、脳に幸せを運んでくる。


「心も体も癒やされる味わいだ」


 麺を引っ張り出して野菜と豚とにんにくを沈め、浸った野菜を掴めるだけ掴んで口に放り込んで頬張り、思うさま麺を頬張り、豚を囓る。


 豪快に、細かいことなど考えず、喰らう。


 時々、露骨ににんにくの欠片を囓ってピリリと刺激がくるのもまた、おかし。


 更に。


「調味料の出番だ」


 一味とブラックペッパーをぶっかければ、刺激ブースト。


 旨くないはずがない。


 ああ、喰っている。


 ああ、生きている。


 ああ、食の幸福を味わっている。


 心地良い。


 疲れが吹き飛ぶ、食の体験だ。


 素晴らしい。


 大きい豚を囓り、スープで追い駆けて味を足し、そこに麺と野菜で追い駆ける。


 そういう食べ方もまた、快感だ。


 なんだか、すっかり元気になってきたぞ。


 モリモリ喰らえば、モリモリ減る。


 気がつけば。


「もう、終わりか……」


 主要なものは姿を消し、麺と野菜と肉の欠片が沈むスープが残るのみ。


 レンゲでスープを一口、二口、三口……


 二十口ほど名残を惜しみ。


 追加で十口ほど余韻を楽しみ。


 最後に、水を一杯飲んで未練を断ち。


「ごちそうさん」


 狭い店内を抜け、店を後にした。


「腹ごなしに少し歩くか」


 進路を南、オタロードへと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る