第227話 神戸市灘区桜口町の旨辛味噌らぁめん野菜盛+白飯セット

「御影公会堂か」


 そこで、学生時代の部活のOBOG交歓会が開催される。


 午後一での開始となるため、現地で食事を済ますのが効率的。


「折角だ。普段余りいかない界隈だけに、普段余り行けない店に行ってみよう」


 御影公会堂は、国道二号線沿いにある。二号線沿いといえば。


「ここもいいんだが」


 赤いテントのラーメン屋。昔ながらの中華そば。かつて、母校の最寄り駅前にもあり、馴染みもある。


「いや、今日はそういう口じゃない」


 そのまま少し進めば、青いテントに手書き文字の店。


「そうそうこういのが……って、ランチ営業していないのか」


 大阪にもいくつか店舗のある系列の店は、やっていなかったので前を通り過ぎる他ない。


 そのまま、更に西を目指す。ゴーゴーウェスト、ニンニキニキニキニンニンニン。


「お、ここがあったな」


 なんとも時代にそぐわぬ男の匂い漂う店だ。


 昼食時だけに少し並んでいるが、カウンターならそれほど並ばなくて済みそうだ。


「時間は余裕あるし、待とう」


 名簿に名前を書いて、店頭の椅子に腰掛け『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、ラナンのイベント中で、粛々とアクティブポイントを稼いでおく。


 ほどなく、店頭から呼び声が掛かり店内へと。


 入って右手の壁側のカウンター席に通されて、メニューを眺める。


「大盛もいいが、ご飯とのセットも捨てがたい……基本の醤油でいくか、他でいくかも悩ましい」


 そこそこメニューが豊富なので、迷いが生じる。


 しばし眺めて、色々な想いを総合し。


「旨辛味噌らぁめん野菜盛、それと白飯セットで」


 と注文を通す。野菜を追加しつつ、麺はそのままで白飯をプラス。品目を増やしてバランスを取る作戦だ。炭水化物に炭水化物を重ねただけの気もするが、気にしたら負けだ。


 後は待つばかり。ゴ魔乙を少し進めていると、注文の品がやってきた。


「なるほどなるほど……いいぞ」


 だが、そこで隣の客が旨そうに呑んでいるものが目に入ったので、


「あ、瓶ビール追加で」


 と思わず発注したのはご愛嬌。若者と接する前にガソリン投入だ。


 改めて目の前の丼を見れば、こんもりと盛り上がった野菜の山に薄切りだが覆うように乗る肉。赤身を帯びたスープは見るからに旨そうだ。そこに、白飯もあれば、もう敵はいない。


 見ている間に瓶ビールもやってきたので、グラスに注いで準備して、


「いただきます」


 さっそく、野菜の下から麺を引っ張り出して啜る。


「旨辛!」


 そのままの感想だった。醤油ベースに辛味噌が入った感じ。元の醤油ベースのスープが旨味の強い甘辛系なので、それを踏襲して辛味噌の風味がプラス。辛味はそこまで強くないので、正に旨辛。


 そこにビールで喉を潤すのも最高だが。


「何より、ご飯が進むな」


 麺をおかずにして食うご飯も、当然旨い。炭水化物 on 炭水化物だ。背徳の甘美さだ。


 とはいえ、野菜もたっぷり。


「炒め野菜だから、脂もバッチリ」


 これもまた、背徳的な味わいだ。


 肉で野菜を巻いて喰うのも一興。


 だが、何か足りない。


「ぼくたちにはにんにくがたりない」


 そう、思い立った。にんにくは普通に入っているが、追加は可能なようだ。


 ならば、頼まねば。


 店員ににんにく追加を頼みつつ、


「青ネギ! そういうのもあるのか!」


 座席の表示にあったので、そちらも追加する。


 少ししてやってきたにんにくと青ネギだが。


「うわぁ、なんだか凄いことになっちゃったぞ」


 てっきり、小皿に盛られた刻みニンニクとかがやってくると思ったのだが、やってきたのは、マッシャー+剥きニンニク。


「こいつは、豪快にいけるな」


 大ぶりな欠片をマッシャーに入れてぎゅっと。


 絞り出されたにんにくを、ドバドバと入れる。


 一混ぜして、スープを味わい。


「まだ、もう少しいけるな」


 もう一片は小さめのものをチョイスして潰してぶちこめば。


「これだ!」


 ちょうどいい感じのにんにく加減になった。


 辛味とにんにくのコラボレーションは最高だ。


 そこに、更にネギを足せば。


「旨い」


 語彙力がダメになっているが、ネギ科同士相性は抜群。


 薬味が最高に仕事をして、食欲を増幅してくる。


 あっという間に茶碗のご飯がなくなるが。


「まだまだ」


 店内に設置された保温ジャーから追加。そう、白飯セットのご飯はおかわり

自由なのだ!


 薬味塗れでまた趣の変わった麺をおかずに米を喰らう。


 至福。


 だが、


「麺が終わったか……いや、麺がなければスープを飲めばいいじゃない!」


 ご飯を口に放り込み、れんげでスープを掬って追い駆ける。


「これだ……」


 旨辛にんにくネギ味のスープにご飯が合わない訳がない。


 敢えて掛けてしゃぶしゃぶにせず、ご飯を頬張る食感を味わった後で追い掛けるのが、いい塩梅だ。


 思うさまにご飯を頬張り、スープを飲み。


 やがて、ご飯は尽きた。


「流石に、もう一杯はしんどいな……」


 ならば。


 丼を持ち上げ、残ったスープをゴクゴクと飲み干す。


「ぷはぁ」


 背徳的な味わいが全身に行き渡る。


 最後に、水を一杯飲んで落ち着いて。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を出る。


「さて、御影公会堂を目指すか」


 国道二号線沿いを、東へ。

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