第225話 大阪市中央区日本橋のラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ魚粉)

「どうにも力が出ないな……」


 仕事を終え、会社を出るころには、妙に疲れが出ていた。

 それもこれも、健康診断で朝食を抜いたからに違いない。


「こういうときは、栄養補給か」


 腹の虫も、元気よく応じている。


「なら、行くしかあるまい」


 かくして私は、御堂筋線なんば駅の南改札を出ていた。


 そこから、NAMBAなんなんへ入り、チャンピオン的な名前の麺屋の横の階段から地上へ。千日前商店街に突入して右折して道具屋筋へ入り、NGKの南側の道を東へ入る。そこから南へ東へ南へと何度か道を折れて進めば、オタロードへ向かう途中に目的の店はあった。


「お、一番乗りか」


 これはありがたい。腹の虫へいち早く栄養を届けられる。


 開店までの時間は、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』だ。現在はタワー攻略イベントで、ポイント稼ぎにスコアタ要素も絡んで中々に楽しい。昨夜諦めていた【研究所】リリーが出たのでモチベーションが上がっているのだ。


 手ごわいステージで既定のスコアを稼ぎ出す形式のイベントは、いい感じに面倒で楽しい。この調子でケイブが持ち直していつかゲーセンに『怒首領蜂 最大復活』を引っ提げて帰ってくると信じている。


 その前に、年末の『エスプレイド』が楽しみで仕方ないが。いろり使いだがロリじゃないぞ?


 などとよしなしごとを考えていると、店員が店を開けて中に案内される。


「食券機新しくなってる」


 稲妻のようにまっすぐいって少し左に折れてまっすぐ奥に伸びて右に少し折れたような店内の、最初の突き当りにあった食券機が使用禁止になり、入ってすぐ右手に真新しい食券機があった。


「これまで共有していたのが別々になったのか」


 眺めているといつもと違うものを頼みたくもなってくるが、今日はオーソドックスにいきたい。


 基本の『ラーメン』の食券を購入すると、店の最奥の席に通される。


 食券を出し、


「麺の量は?」


「並で」


「ニンニク入れますか?」


「ヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ魚粉で」


 とサクッと注文を通せば、後は待つばかり。


 ゴ魔乙のイベントの続きをする。


 長いステージだが、中々既定のスコアに到達できん……と、トライアル&エラーをしていると、時間が経つのは速い。


 注文の品が、やってくる。


「おお! 今日はいい感じの盛りだ」


 ここしばらくおとなしめの印象だったが、今日は違う。


 三角錐というより、円筒に近い形で盛り上がった野菜の塔は、魚粉が掛かって一部が灰白色に染まっているのが趣深い。


 麓には、大ぶりの豚の肉塊と、刻みニンニク。


 疲れた体にとてもよさそうな一杯だ。


「いただきます」


 まずは、崩さないように気を付けつつ野菜を慎重に剥ぎ取って口へ運ぶ。


「もやし旨い……」


 余り味が付いていない部分だが、もやしの臭みはなく、ほのかに甘みが感じられるのがいい。


 そこに魚粉を絡めるのもよし。


 これは、野菜だけでも食が進む、というか、流石に野菜を食べ進めないと咲に、もとい先に進めない。今を抜けだそう。


 そうして、腹の虫を喜ばせつつ野菜の塔をある程度処理したところで、肉塊とニンニクを麓の隙間からスープに沈め。


 レンゲと箸を駆使して麺を引っ張り上げる。


 と同時に、我慢出来ず麺を頬張れば。


「この歯応え……嬉しいねぇ」


 バキバキともいえる太麺は、噛めば噛むほど旨味が溢れる。麺自体の旨さがこの店の何よりいいところだ。この麺だけお持ち帰りして色々したくなる美味しさ。


 ここまで来れば、後は貪るのみ。蜥蜴僧侶の爪爪牙尾のごとく麺麺野菜豚という感じで口へ運べば、正に甘露!


 食の悦びに浸れる。


 そのまま、普通のラーメンの大盛ぐらいの量まで食べ進めたところで。


「刺激をプラスだ」


 粗挽き黒胡椒をドバッとかけ、一味をドバッとかけ、赤と黒の斑に塗れた麺を啜れば……


「げふっ」


 こしょうのにおい しみついて むせる。


 啜る勢いで胡椒が喉に染みつくように気管に入りやがった。水を呑んで一息ついてから、改めて慎重に啜れば、今度は大丈夫。


 期待通りの刺激が加わり、当たり前にスープに溶け込んだニンニクの風味も相まって、新たな楽しみが生まれる。


 とても充実した食の体験。


 疲れが癒やされる、この上ない健康食品だ。


 心身共に元気になってくる。


 だが、元気になれば食が進み。


 気がつけば。


「終わり、か」


 解っていた。だけど、それでも食べずにはいられないのだ。


 胃の腑の中に入り、己の血肉になるであろう麺麺野菜豚に敬意を。


 スープを啜って名残を惜しみ。


 完飲は控え。


 最後に、水を一杯。


 丼とコップを付け台に上げ。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


「ふぅ、満足だ」


 満たされた気持ちで、腹ごなしにオタロードへ。


 

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