第221話 大阪市東成区東中本の味噌ラーメン(野菜ニンニク麺大盛り)

 仕事を終えた私は、受け取り損ねた荷物を回収するべく郵便局へ寄ろうと、大阪メトロ中央線緑橋駅に降り立っていた。


 しかし、案の上。


「腹が、減ったな……」


 ここしばらく、妙に疲れているのもある。こういうときはガッツリ行きたいところだ。


 脳内を検索した結果、思い当たる店があった。


「よし、久々にあの店に行ってみるか」  


 緑橋駅構内から出て、高速の南側を東へ真っ直ぐ進む。


 途中のカレー屋やらに空腹を刺激されながら、そこそこ歩いたところに、目的の店はあった。


「お、空いてるな」


 夕食にも少し早い時間だけ合って、すぐに入れるのはありがたい。


 厨房前に真っ直ぐのカウンター席と、テーブル三席のこじんまりした店内に入って右手に、食券機がある。


 基本の麺やつけ麺まぜそば台湾と、色々なメニューがある。


「オーソドックスなのもいいが……ここは、味噌か」


 今日はそういう気分だったので食券を確保し、カウンターに着こうとするが、


「こちらのテーブル席にどうぞ」


 とテーブル席へ通された。まぁ、空いてるからか。


 一人で四人掛けの席に座るのは少し気が引けるが、これはこれで贅沢だ。


 席に着いて食券を出し、


「麺と野菜ニンニク大盛で」


 とオーダーを通す。ここは、そういう大盛無料サービスをやっているのだ。


 後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は本編の新章が始まり、プルメリアがピンチなシナリオが展開している。それはそれとして、購入したリリーがボーナス付きなので活用して出撃する。


 一度出撃した辺りで、なんとなくできあがってきそうな雰囲気だったので待っていると、予測通り注文の品がやってきた。


「味噌ラーメンだねぇ」


 褐色のスープの上に、山盛りの野菜。ポテトサラダ上に丸く盛られた刻みニンニク。分厚くデカいチャーシュー。


 旨そうだ。


「いただきます」


 まずは、スープを啜れば。


「なんか、ほっこりするなぁ」


 少しピリッとした感じのオーソドックスな味噌味だ。こういう系統の味噌だと獣臭かったりするが、そういうのはない。どこまでも優しい味わい。


「野菜が進むな」


 味噌に浸して野菜を食う。シャキシャキしたゆで加減の野菜にとろみのある味噌スープが絡むのがいい塩梅だ。


 そうして野菜が少し減ったところで、麺を引っ張り出す。太く腰のあるツルツルの麺に、味噌味。オーソドックスな味なのに、しっかりした麺の食感が面白い。


「これは、大物だな」


 スープに浸したチャーシューに一口。がぶりと齧り付く。


「旨っ」


 豚のしっかりした味わいと、味噌。抜群だ。


 だが、少し冷たい。ならば。


 レンゲと箸を構え、麺を引っ張り出して野菜と豚を鎮める。ついでにニンニクを混ぜる。天地を返してしまえば、見えるのは黄色い麺の山。


「お、ニンニクが来たな」


 欲望に任せて麺を啜ると、優しかった味噌にパンチが加わってきた。ニンニクと味噌も相性抜群だ。それらを纏った麺は更にパワーアップした旨さ。炭水化物と味噌味が合わない訳がないのだ。


「本当、すげぇ旨いな、この豚」


 スープに浸して合ったまった豚を囓れば、しっかりとした力強い豚の味わいが口内に広がる。そこを追い駆けるようにスープを口に含むと更に幸せな気持ちになれる。


 ああ、いいぞ。


 そういえば、ここのところ辛味噌ラーメンばかりでオーソドックスな味噌ラーメンご無沙汰だったのもあるか。とても、とても、いい。


 幸せな気持ちで麺を野菜を豚を囓れば。


「もう、終わり……だと?」


 結構なボリュームがあったはずだが、いつのまにかスープが残るだけになった丼があった。


「どんな魔法を使った?」


 箸とレンゲで喰っただけだ。


 と、おかしな一人ツッコミをしていても仕方ない。


 名残を惜しむように、レンゲでスープを数度口に含み、大切に飲み込む。


 そうして、深く息を吐き。


 最後に、水を一杯飲んで気持ちをリセット。


「ごちそうさん」


 名残を振り切り思い切って店を後にする。


「さて、期待以上に旨い麺を喰ったところで、歩くか」


 どこの駅からも微妙に遠い郵便局を目指し、足を進める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る