第220話 大阪市中央区難波千日前の賄いポン酢
「腹が、減ったな……」
仕事を終えた帰り道。
ここしばらく体調が宜しくないところで、大層な空腹が襲ってきた。
それは、きっと、喰って治せという体のサインに違いあるまい。
なら、喰おう。
「しかし、何を喰ったものか……」
買い物のために難波の地に降り立ち、思案する。
ここは、ガッツリの定番に行きたいが、最近は選択肢が沢山あるのだ。
あれこれ脳内で検討を重ねていると。
「そうだ。久々にあれにするか」
かくして進路は決まった。御堂筋線なんば駅の南側から出て南海難波方面から出てなんばCITY内を進み、途中のATMで買い物用の予算を降ろしつつ、道具屋筋方面へ。そこから少し南下して左折。しばらく行って右折すれば、目的の店がある。
「お、これならすぐいけそうだな」
開店直前の店の前には、3人の列。4番目なら最初の麺上げでありつけるだろう。
列に入り『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、イベント間の小休止だ。頑張って出撃するのもしんどいので、おでかけやら成長やらをさせている間に、開店となった。
厨房をコの字に囲むカウンターの店内に入って左側の壁際に、食券機がある。
「今日は、もちろんこれだ」
ガッツリの中のサッパリ。その秘訣は【ポン酢】である。という訳で、今日は賄いポン酢なのだ。
食券機の横のコップを確保して、順番で奥から四番目のカウンターについて食券を出す。
「ニンニク入れますか?」
「入れてください」
ここはマシがないので、ストレートに答えるのが正解だ。
後は待つばかり。ゴ魔乙はやることはやったので、週刊少年チャンピオンを読む。『もういっぽん!』がとてもいい女子柔道漫画で癒される。扉の早苗が顔を抑えて眼鏡がずり上がってる具合が最高だ。
などと思っていると、注文の品がやってきた。
「う~ん、いい感じだ」
大きな丼にこんもり盛られた野菜。麓に鎮座する刻みニンニク。それらが褐色の液体に濡れている。それが、ポン酢だ。
肉は見えない。肉は野菜の中にあるのだ。
野菜を先に喰えば、栄養の吸収を緩やかにできるというから、健康的だ。
「いただきます」
まずは、スープをレンゲで啜る。
「はぁ、サッパリサッパリ」
というと、センスを持った小さな妖精が出てきそうだが、脂ぎったこってりを酸味が包み込んで本当にサッパリ感じるのである。
これは、するするいける。
野菜をガツガツ食って減らしたところで、レンゲと箸を使ってニンニクを溶かし込んでから麺を引っ張り上げる。
その際に、
「肉!」
トンテキぐらいのボリュームがありそうな肉に、かぶりつく。煮えてホロホロ。スープを含んでサッパリ。いいねぇ。腹の虫も喜んでいる。
そこで、満を持してやや平たい太麺を啜れば、こってりサッパリ。旨い。口当たりはドロッとして脂ぎってるのに、サッパリ。旨い。ニンニクが後からガツンとくる、旨い。
「なんか、今日は食が進むなぁ」
麺も野菜も豚もするすると入ってくる。サッパリだからだ。ポン酢の魔力というやつだろう。何気に、何にでも合う調味料だ。家では冷ややっこに掛けて喰うが、あれもさっぱりする。
「む、そうか! ポン酢を掛ければ実質冷ややっこ! ならば、これはヘルシーに違いない」
脂でギトギトだけどさっぱりしたスープをレンゲで啜って味わって麺を口いっぱいの頬張ってもサッパリ。うん、実質冷ややっこだからどれだけドロドロでも大丈夫! 旨い!
周囲の人と明らかに違う速度で、麺も野菜も豚も胃の腑に落ちていく。更にスープで追いかける。ドロドロだけどポン酢でサッパリしたスープを、だ。
今日の選択は正解だった。
私の腹の虫が求めていたのは、実質冷ややっこだったのだ。
これなら、健康にもいいに違いない。
だが、少し冒険したくなる。
卓上にあるおなじみの一味とあらびき胡椒をバサッと振りかけたところで、
「これ、あるんだよなぁ……」
グリーンペッパーソース。緑のタバスコだ。
タバスコと言えば酸っぱい調味料。ならば。
「行くしかないな!」
ぐるりと回しがけ。
まぜ合わせ。
残り少なくなってきた麺を啜れば。
「うんうん、新たな酸味でサッパリだ!」
一味と胡椒の風味もあるが、それよりも酸味が立つ。
いいぞ。
もう、残りは少ない。
このよさを、何も考えずに味わおうじゃないか。
麺豚野菜野菜豚麺麺野菜野菜麺豚野菜……
「終わり、か」
思ったよりもずっと早く、丼の中にはスープだけ。
二・三口レンゲで名残を惜しみ。
コップに水を注いで飲み干してサッパリをスッキリに変え。
付け台に食器を上げて。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、『戦国エース』と『ガンバード』のシリーズが揃った『彩京 SHOOTING LIBRARY VOL.2 』を確保しに行くか」
進路をオタロードに向け。
マリオン、発進!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます