第216話 大阪市中央区難波千日前のトマトらーめん+チーズかえ飯
「期待以上によかった……」
夏が終わり、大阪に帰ってきて時間ができたので、難波まで出て「アルキメデスの大戦」を鑑賞したのだ。
数学で戦争を止める、というキャッチーなテーマで描かれる頭脳を武器とした戦争物語。タイトルが「アルキメデスの大戦」とは洒落ている。
歩きながら食べられることを意識したお湯の要らないカップ麺で、コナミの名作横スクロールシューティングゲーム『グラディウス』をタイアップし、パワーアップアイテムがそのカップ麺になるという……節子、それ『アルキメデス』ちゃう、『アルキメンデス』や!
アルキメデスは、浮力に関する法則を発見したのだ。だからこそ造船に関わる物語にこのタイトルは粋だなぁ、とか深読みしたのである。
予算だけが大事だったり、それを不正でごまかしたり、古い価値観を変えられずに先見性に富んだ意見を平気で否定したり、日本らしいあれこれを覆す為に、大戦艦建造見積もり費用の不正を暴くため、数学の天才、
原作とは大分違うのかもしれないが、とても好みの映画だった。
満足感に浸り、映画館を出たところで、
「腹が、減った……」
腹の虫が騒ぎ出す。
いや、映画を観ている間も既に泣き始めていたのだ。
何しろ、映画の時間が昼時からだったので、ランチタイムが終わりそうな時間になっているのだ。
そりゃ、腹が減る。
「さて、何を喰ったものか?」
劇場を出てとりあえず千日前通りを南に抜ければ、龍の姿が目に付く。
東京から帰ったところだけに、大阪ならでは、というのもありだが。
「う~ん、どうも、ワンパターンな気がするぞ?」
それ以前に、キムチやらニンニクをガッツリいくのは、旅で少々疲れた胃腸には重いかもしれない。
NGK前を通り、道具屋筋前を左折。
「あ、ここ、久しぶりに行ってみるか」
九州という名を冠しているが、ここも大阪のチェーンだ。
ありだろう。
昼時を大分過ぎているので客はまばら。すぐに入れそうだ。
厨房を囲むカウンターと、いくつかのテーブル席が並ぶ。ファミリーでも入れるような雰囲気の店内。
一人なのでカウンターに案内され、メニューを眺める。
久々なので基本に行くか、とも思ったが、
「トマトらーめんで」
と注文を済ます。そういえば、以前気になっていたまままだ喰っていないことを思い出したのだ。
後は待つばかり、となれば『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』の出番なのだが、あいにく今はメンテ中だった。
代わりに、学生アリスの短編集を読み進める。日常の謎っぽいのに江神さんが対峙するので、楽しい。
ほどなく、注文の品がやってきた。
「なんか、こじんまりしているな」
メニュー写真と違って、背の高い赤い丼に赤いスープだからか、どうにも量が掴みづらい。
具材は豚バラと、葉物野菜は……ほうれん草、かな? あと、剥きトマトがごろっと入っている。
麺は中細ストレート麺か。
「いただきます」
まずは、スープを頂く。
「お? これは、旨いぞ」
博多豚骨系のスープに、トマトの酸味と甘み。さらに、黒い油はマー油らしく、ニンニクの風味もある。
バランスのいい、トマトスープだ。
麺を啜れば、これまたいい具合にトマト味。
イタリアンと博多の融合だ。大阪のチェーンだけど……って、そこがまた大阪らしいか。
豚バラも、トマト鍋の具材的な趣で、いい塩梅だ。
箸休め的な葉物野菜の味わいもいい。
ベースのスープがいけるので、何を喰っても新鮮なトマトスープの味わいが楽しめる。
だが。
「イタリアンなら、これだよな」
実は、麺と共にある調味料を持ってきてくれたのだ。
元々は、牡蛎を食うために発明された、唐辛子と酢をベースにした調味料。
タバスコだ。
「ただ、味を壊さないように」
普段はピザの表面が赤く染まって垂れる程度には使うのだが、回し掛け程度に留める。
そうして、スープを飲めば。
「合わないわけがないな」
酸味と辛味が加わって、一層スープの味わいが際立つ。
そうして、ズルズルと麺を啜っていると。
「何!?」
麺が、底をついたのだ。
これは、誤算だった。麺マネジメントの失敗である。
だが、大丈夫、ここは替え玉……
「かえ飯! そういうのもあるのか!」
メニューのトマトらーめんの下に、チーズかえ飯の案内があったのだ。
なら、行くしかあるまい。
「チーズかえ飯を」
これで、まだ戦える。
ご飯に溶けるチーズを塗して、レンジで加熱。そこへ刻み海苔を載せたものがほどなくやってくる。
「さぁ、一気に行こうじゃないか」
茶碗を傾けて中身を一気にスープの中へ。
レンゲでかき混ぜ。
リゾットのようになった米をレンゲで頂く。
「ああ、米もいいなぁ」
チーズとトマトの相性はバッチリ。イタリアンの定番の味わいだが、豚骨ベースが新鮮か。
とても食が進む味わいだ。
米を救うと、ときおり底の方から切れた短い麺が出てくるのも楽しい。
そうして、イタリアンリゾット豚骨風味を楽しめば。
スープも完飲してるの、仕方ないよね?
という訳で、丼は空になっていた。
口内に残る味わいに、イタリアの街で九州男児が仁王立ちする姿を幻視する。
水を一杯飲んで正気に戻り。
「ごちそうさん」
会計を済ませて店を出る。
「さて、五日目の夏を見てきますかね」
進路を南東、オタロード方面に取る。
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