第213話 東京都台東区上野の蒙古タンメン

「面白かった!」


 ここしばらく忙しく映画を観る暇がなかった私は、上野でめがね之碑に参拝して旅の安全祈願をしてそのまま蓮の美事な不忍池の周囲を散策し、肉の大山でメンチカツで一杯やったら十分差でドリンク半額を逃したことに気づいて少々悔しかったり、帽子を忘れたけどわざわざちゃんとしたのをアメ横で買うのも億劫だったのでダイソーで確保した後、せっかくなので比較的新しい映画館で映画を観ることにしたのだ。


 観た映画は『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』である。


 『ドラゴンクエストV』をベースにした劇場3Dアニメ作品。


 私はFF派というか、ロト原理主義者だったので4以降の存在を認めていなかったりしたのだが、7が出た辺りから少しずつ態度を軟化させて、11でロトに関わってきたのを機に、昨年ようやくVを初プレイしたのである。


 フローラルートをクリアし、現在は通常攻撃が二回攻撃のお母さんであるデボラルートのラスボス手前まで。もうすぐフルコンプだ。あれ? なんだか、もう一人居た気がするが……ボタン連打で電撃出しそうな名前の……ブランカ! じゃなくてイタリア風にビアンカだ! 因みに、どっちも同じ『白』を意味する言葉なので『ブランカ』でもあながち間違いではない。まだプレイしていないので馴染みが薄いのはご容赦願いたい。初プレイ時にフローラ一択だったもので……


 と脱線したが、ドラクエVをモチーフにした劇場作品を、奇しくも昨年ドラクエVを初プレイしてのんびり未だに継続しているところだったのが、よかった。


 BGMなどの記憶も新しく、原作のアレンジの仕方も色々と解るというか物語の仕掛けが見えてきたり、とても楽しめる作品だった。


 特に、賛否を呼びそうな要素が個人的にツボで大好き要素だったので、個人的には手放しで賛辞を送れる作品だったと言えよう。


 そうして映画を楽しんだ後。


「ふむ、さすがに腹の虫が泣きわめくほどではないが……」


 ここは御徒町。

 

 大阪には店舗がないが、月一以上のペースでカップ麺を食す程度に愛好している店がある。


「せっかくだ、店で実際の麺を食そう」


 かくして、JRの高架下の店舗へ向かう。


「並んでるけど……まぁ、いいだろう」


 東京でしか喰えないのだ。少し待つぐらいどうということはない。


「色々あるが、勿論、これだ」


 看板メニューの蒙古タンメンの食券を確保する。さすがに、麻婆豆腐とごはんは付けないでおこう。


 かくして、店内で待つことしばし。


 ようやく順番が回ってきてカウンター席に案内される。


 食券を出せば、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在の応援イベントは五乙女なので、そこまで頑張らず。カトレアのステージをこなす。リリーが喜ぶだろうと想像すれば、それはそれでいいのだ。


 サクッと出撃を終えたところで、注文の品がやってきた。


「これが、オリジナルだったな……」


 長らくカップ麺しか食べていなかったので、むしろ新鮮というべきか。


 茹でたもやし、キャベツ、人参、キクラゲがどさっと乗っていて、その上に特製麻婆豆腐が掛かっている。ベースのスープ自体も辛み味噌スープ。辛味に辛味が絡みに行くスタイルである。


「いただきます」


 早速、麻婆豆腐を絡めて麺を啜る。


「ん? 思ったほど辛くない?」


 スープの野菜の旨味甘みが強いのもあるが、辛味はそれほど感じない。


 いや、むしろ優しい、か。


 カップ麺も旨いが、やはり生の素材は違う、ということだろう。


 しっかりした中太麺に絡む麻婆とスープの塩梅もよく、食べ応えも相応にある。


 しばし無心に喰っていると。


「……うん、辛い、な」


 いつの間にか額に汗が滲み、舌に刺激が伝わってくる。


 なんのことはない。


 後から来るタイプの辛味だったのだ。


 そういや、そうだった。


 今、思い出した。


 でも、この辛味。辛さは十分だが、それでもやはり、カップ麺とは

比べものにならない優しさというか滋味というか、そういうのを感じる。


 生の野菜と豆腐。


 それらが寄与しているのだろう。


 ああ、やはり、店舗は違うのだな。


 大阪に進出してくれないのが辛い。口の中は辛い。


 まぁ、夏と冬の楽しみの一つとすれば、それはそれでいいだろう。


 味変も必要なく、というか、麻婆豆腐が最強の味変アイテムとも言えるので、そのままの味で楽しむ。


 これぞ旨辛! という味わいは、飽きがこずに食欲を促進する。夏にいいメニューかもしれない。


 野菜の食感、豆腐の食感。店舗ならではの要素と、ベースが同じスープと麻婆の味わい。


 全てを堪能する。


 多幸感と多感のコラボレーション。


 とても楽しい。


 しかし、楽しい時は、やはり永遠には続かない。


 えいえんは、あるよ


 とは誰も言ってくれないのだ。


 だから、丼の中にもうスープしか残っていない現実に立ち向かわねばならない。


「まだだ」


 麻婆と合わさってしっかり辛いスープをレンゲで啜る。


 啜る。


 汗が、滴る。


 啜る。


 汗を、拭く。


 啜る。


 汗が、ヤバい。


「ここまで、か」


 汝、完飲すべからず。


 少し残すぐらいで終わりにしよう。


 最後に、水を一杯飲んで身体を冷やし。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に戻して店を後にする。


「さて、歩くか」


 今日はなんだかしっかり喰った気がする。


 腹ごなしに、二駅先のホテルまで歩くとしよう。


 進路を、まずはアキバへ。


  


 

 


 

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