第94話 大阪市浪速区日本橋西の味噌 MAZE そば(中・ヤサイ、ニンニクマシ)
明日から三連休。
とはいえ、やることが沢山あってそんなに休めるわけでもなし。むしろ、今の内に鋭気を養っておきたいぐらいだ。
そんな夕刻。
仕事を終えた私は、日本橋のメロンブックスで、呑子さんが表紙の『ゆらぎ荘の幽奈さん』と、隣にあって表紙を見て衝動的に手に取った『モネさんのマジメすぎるつき合い方』などを購入したところだった。
さて、帰るか、と思うのだが、腹の虫が待ったを掛ける。
これから帰って夕飯の準備をするのも面倒だ。休みを全力で乗り切るためにも、ここはしっかりと喰っておくべきかもしれない。
何処で喰ったものかと考えながらエスカレーターを下り、メロンブックスが入っているアニメイトビルを出て右手を見れば。
「お、こんなところに支店出てたのか……」
真新しいラーメン……否、まぜそば屋がオープンしていたのだ。
「なんとお誂え向きな……よし、今日の夕飯はここに決めた」
という訳で、件の店へと向かう。
「結構並んでいるな……」
オープン直後というのもあるかもしれないが、十人弱が並んでいる。
「しかし、今日はここと決めたのだ。並んででも喰うぞ」
意志を固め、列の最後尾へと並ぶ。
「まぁ、粛々と日々の習慣をこなしていれば、すぐだろう」
徐に『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
おでかけを仕込み、学園乙女とコミュニケーションを取ってランチを分け合い、バトルをこなしていれば、列はどんどんはけていく。
「先に食券をお願いします」
あと三人ほどというところで店員に声を掛けられ、店頭の食券機の前へと足を運ぶ。
「ノーマルに、台湾風に、カレーに、味噌、か」
まぜそば専門店というだけあって中々のバリエーションだ。
新店舗ではいつもならノーマルにいくところだが、別店舗でノーマルは喰ったことがある。なら、これまでに食べたことのないものを選ぶのが成功だろう。
また、台湾風という名古屋飯や、カレー味は他にもある。
なら、ここは、
「味噌、だな」
論理的にメニューを決めたところで、まだファクターがあった。
「並と中が同額、大が100円増し、か」
少し思案するが、並・中を選ぶことにする。この店では、現金で追い飯購入が可能だ。ここで麺に100円を費やすよりは、食い終わった時点の腹具合で100円から130円の追い飯を購入した方が、新たな味が楽しめてよいだろう。
どこまでも理詰めで、『味噌 MAZE そば並・中』の食券を購入して列へと戻る。
少しゴ魔乙を進めたところで、順番が回ってきた。
「一番奥のカウンターへどうぞ」
細長いカウンター席のみの店内を奥まで進み、着席する。
食券を出し、麺量中を伝えたところで、ニンニク、ヤサイ、アブラの量を尋ねられる。店内の掲示に従えば、無し、少なめ、普通、マシが選べるようだ。
なら、結論はすぐに出る。
「ヤサイ、ニンニクマシで」
かくして、後は待つばかり、ではない。
店頭に付け合わせのキムチの瓶が置いてあり食べ放題なのだ。
まぁ、それほど量は入らないが、箸休め的に確保しておいて悪いことはないだろう。
細い店内を行き来して、小皿に適量取り、席へと戻る。
ゴ魔乙のイベントステージへの出撃を一度こなし、二回目は辛いかと週刊少年チャンピオンを読んでいると、注文の品がやってきた。
「まぜそば、って感じだなぁ」
麺の上に盛られたキャベツともやし。その上に、鰹節、大ぶりのチャーシュー、油、刻みニンニクが円周に沿って並び、中央に卵黄が鎮座している。
山盛り感はないが、丼はかなりでかい。ボリュームは充分ありそうだ。
箸とレンゲを手に、喰らい付きたくなる気持ちをグッとこらえてかき混ぜる。
いつも、この工程を蔑ろにするから、失敗するのだ。
私は、これまでの経験で学習したのだ。
まぜそばは、しっかりまぜて食べるものだと。
……うん、言葉にすると阿呆な気もするが、気にしたら負けだ。
箸とレンゲで底から麺を引っ張り出せば、濃い褐色のタレを纏っていた。味噌の色合いだろう。見るからに旨そうだ。
鰹節、油、ニンニク、ヤサイに卵黄を纏わせつつ麺に絡めていく。
ぐっちょんぐっちょんにしてやる。
念入りにまぜあわせた結果、いい感じにジャンクな食い物が目の前に現れていた。
そろそろ、いいだろう。
「いただきます」
いよいよ、だ。
ヤサイと麺を一緒に掴み、口へと運べば。
「なるほど、味噌味……」
確かに、味噌の風味はある。
だが、
「鰹の力……か?」
豚骨ベースと思われるが、魚介の香りが強く、全体的に和のテイスト。
全体としては、豚骨魚介出汁を味噌で引き立てたような、強烈な旨みを感じる。
そこに、アクセントとしてニンニクが効いているのもいい。
箸の動きが加速してしまうのも、当然だろう。
わしわしと、しっかり混ざって本来の姿を示すまぜそばを存分に楽しむことにする。
「おっと、これも忘れてはいけないな」
パンチの効いた風味に口内が支配されたところで、確保してあったキムチを頂く。
「あっさりめ、だな」
辛味より、旨みを重視した印象。よくある味だが、それがいい。
箸休めとして、いい仕事をしている。
「よし、改めていこう」
再びまぜそばに挑めば、再び強烈な旨みを感じられる。
ここで、取っておいたチャーシューを口に運べば、ごつい見た目ながらしっかり煮えてほろほろと崩れ、豚のしっかりした味わいが口内に広がる。
なんだか、上品にさえ感じる。錯覚だとは、重々承知だが。
気がつけば、もう残り少なくなっている。
「ちょっと、味変試してみるか」
机上には、幾つかの調味料があるが、その中の「こんぶ酢」が気になっていたのだ。
「とはいえ、かけ過ぎるといけないから……」
数滴を垂らし、すぐにその部分を口へと運ぶ。
「なるほど、こういう味わいか」
鰹と昆布が合わない訳がない。益々和のテイストが強まりつつ、酢の酸味でさっぱりした風味になる。
「さて、どうしたものか」
味はいい。味が大きく変わるのは事実。全体に行ってしまえば、後には戻れない。
ここで検討すべきは、追い飯の有無だ。
追い飯をするなら、まだ、酢は早い。
腹具合と相談する。
どうやら、今日は追い飯をするには少し空き容量が不足しているらしい。
よって、追い飯なしとなる。
なら。
「いくしかないな」
もうほとんど汁しか残っていない状態の丼に、酢を回し掛け。
レンゲで掬って呑めば。
「酸っぱい……けど、旨い」
鰹と昆布のマリアージュ豚骨背脂味噌風味酢仕立て。
まぜそばらしく、言葉にすると少々カオスな味わいが、またいい。
「ええい、面倒だ」
レンゲを使うのも面倒になり、大ぶりの丼を持ち上げて口へ寄せ。
「ぷぅっはぁ」
全てを一気に飲み干したのだった。
「これで、三連休の鋭気はばっちりだな」
酢は疲れを取るにもいいという。ガッツリ麺の〆に加えることで、HP回復量も増えた事だろう。
最後に、水を一杯飲んで一息吐き。
丼とコップを付け台に戻し。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「少し、腹ごなしに歩くか」
夜のオタロードを、南へと歩む。
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