第63話 大阪市中央区難波千日前の限定2
ちょっとばかり遊びすぎて昨日は回復のために一日部屋に籠もり切りになる程度には、連休を満喫している昨今。
せっかく天気がいいのに二日も籠もっているのは流石に体にも精神衛生上にもよろしくない。
「なら、昼を食いがてら出掛けるか」
とはいえ、どこで何を喰ったものか……と考えたところで、ふと思い出した。
ちょうど今、日本橋界隈の独立系ラーメン屋が互いの味をインスパイアし合って限定メニューを出すというイベントをやっているところだ。それを食べにいくのも一興だろう。
それに、購読しているコミックスの新刊も出ていたはずだ。
決まりだ。
かくして、日本橋へと足を運ぶ。
「半袖にして正解だったな」
好天に恵まれて日射しが強いからだろう。まだ五月というのに半袖で十分な気温である。
繁華街近くだけに、人通りは多い。道行く人々を観れば、半袖の人もちらほらと。季節柄春物の長袖を着つつも、暑さで袖を捲っている人も多い。
年月日による季節感に縛られるか、実際の気温で判断するか悩ましいのが春寄り夏寄りの様々な服装から垣間見えるのが少し面白い。
そんなことを考えながら、目当ての店に辿り着く。
「並んでるなぁ」
イベントというのもあるだろうが、連休の昼時だ。二十人弱の先客がいる。
まぁ、それでも三十分も並べば入れるだろうから、待つとするか。
『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイして待ちたいところだが、APが心許ない。ならば、席に着いて落ち着いてプレイしたい。
というわけで、読みかけの本を開くことにする。
異世界転生したヤクザがオークになって世界を救ったりする感じのライトノベルの2巻である。1巻は完全に任侠映画のノリだったのが、ファンタジーらしい展開というか、破滅的な世界観を孕んだものに発展しているのが中々に興味深い。
新キャラがめがねっ娘で、眼鏡を掛けていると描写されているのにイラストが裸眼だったキャラの眼鏡を掛けた絵もあり、安心の内容でもある。
もう、ほぼ終わりまで読んでいたので、そのまま最後まで読んだ頃。
タイミング良く順番が回って店内へと案内される。
まずは食券の購入から。
「これだな」
見慣れたメニューの中で目立つイベントメニューのボタンを押して購入してみれば、いつもの限定メニューの『限定2』の食券だった。限定の名前を入れて毎回メンテナンスしなくて済む、効率的なシステムだな。
席に着いて食券を出し、当然のごとくニンニク有りにすれば、ひと段落。
ゴ魔乙のイベントをプレイして待つことにする。
現在、ラスボス再びの限定スコアタ『闇の幸子の逆襲~最恐!?究極幸子が超難度で再臨!!~』が開催中だった。
アクティブポイントも多めに貰えて、ステージとしても中々楽しい内容だ。
己の腕前を鑑みて、何とか二億点を達成したいと思いつつ、現時点の最高得点は一億九千九百万。あと百万が届いていなかった。
今度こそは。
気合を入れて、ステージに挑む。
ショットは、スコアタの定番
DDPレーザーには及ばないが、GODマグナムは周辺部の炙りでそれなり以上のコンボアップが期待できる。因みに、GODマグナムの使い魔は、水着の【夏娘】リリーを狙って回しまくったときに、リリーが出るまでに同じ☆5枠でリリーの代わりに四枚立て続けに出てきた水着の【夏娘】プルメリアである。
こうして大活躍してくれているので、あのとき●万円をガチャにつぎ込んだのは無駄ではなかったと言える。
半額単発で出てきたクロスブレードの【司唱】シャンルーもいるのだが、生憎クロスブレードは扱い慣れていないので、今は慣れた方で進めている。
そうして、今は麺の事は忘れて集中すること数分。
――おっしゃ!
内心でガッツポーズ。
スコア、 200,901,911 を記録。
自己目標にしてた二億点を達成することに成功したのだ。
気分良くプレイをひと段落させたところで、注文の品がやってきた。
「これが、今回のイベント限定メニューか」
背脂のない、黒いスープ。
山盛りの野菜と隅っこに添えられた刻みニンニク、野菜に埋もれるようにドンと置かれた大ぶりの豚はこの店のいつもの感じだが、野菜の裾野に並ぶメンマと、上から振りかけられたネギがインスパイアを示している。
これらは、大阪のご当地ラーメン的な高井田の中華そばをインスパイアした別のラーメン屋のメニューをインスパイアした、二郎をインスパイアしたこの店のラーメンとのコラボメニューである。インスパイアが連鎖しすぎていてよく解らないが、これで間違ってはいないはず。
因みに、高井田の中華そばのインスパイアである『大阪ブラック』は特定のラーメン屋が付けたその店のメニューの名称であり、その影響でか、時折耳にするようになった『高井田ブラック』に至っては外部が勝手に付けた呼び名で地元にそんな呼称は存在しない。通ぶって地元で『ブラック』とか口にしたら失笑必死なので、素直に『高井田の中華そば』とそのままの呼称か、単に『高井田系』と覚えておくことを推奨する。また、長い歴史のある元祖とされる店も、そこから独立した人が近所に作った同じく長い歴史のある店も、メニューは『中華そば』でラーメンとは記載していないので、高井田のラーメン、も若干違和感がある。
閑話休題。
「さて、味はどんなものか……」
まずは、スープを一口。
「なるほど、醤油が立っているけど、出汁の風味もしっかりあるな」
正直、この店では珍しいあっさり目。背脂などが入っていない分、とても素直な味だった。醤油は大本の高井田の中華そばよりずっと食べやすい程度に大人しく、濃いめの昔ながらの中華そばのスープを思わせる味わい。
なんというか、高井田系よりも、鶴橋に本店を置く京都ラーメンの流れを汲む店の味に近い気がする。あっちは豚骨醤油だが、そう感じるのは出汁が鶏ガラ豚骨なのか、単純に豚ががっつり入っていて鶏ガラの風味にその出汁がプラスされて結果的に豚骨醤油的な味わいになっているのかはよく解らない。
あれこれ理屈をこねてしまったが、これは予想外に食べやすい、というか馴染みのある味わいで安心して食べられる、という趣だ。
「そうそう、この味には、メンマだなぁ」
ごくごくありふれたメンマがまた合う。チラされたネギも、薬味としていい仕事をしている。
ここまでは、インスパイア元の味わいの再現だろう。
「ここで、ニンニク、だな」
コラボの所以、この店の元々の味わいを足していくことにする。
「合わないわけないよなぁ」
醤油とニンニクの組み合わせでは、間違いようがない。ガツンとくるコラボの衝撃が、味わいを楽しいモノにしてくれる。
「野菜にも合うし、うん、これは、この量でスイスイ喰えるな」
麺と野菜の量は変わらないのに、スープに背脂がないだけでこんなに軽くなるのか、というのは発見だった。いや、考えてみれば当たり前なのだが、これまで考えてこなかった、知ろうとしなかったことを知ったのだ。デルポイの神託を契機にソクラテスが見出した、無知の知のようなものだ。
「あれ? もう、無い、だと……」
スイスイにもほどがある。これではスイスイどころからスイスイスーダララッタスラスラスイスイスイぐらいスイスイ喰えてしまったことになる。
名残惜しく、レンゲでスープを口に運べば、中華そば的なスープの懐かしさの中にニンニクが主張するイベントコラボらしい味わいが改めて感じられる。
このまま、丼を持ち上げて飲み干したい欲求も湧いてくるが、汝完飲するべからず。
「十戒に従おう」
水を飲んで口内を清めて迷いを断ちきり、
「ごちそうさん」
付け台に食器を戻して店を後にする。
いい、天気だ。
腹ごなしにオタロード界隈を散策するのも一興だが、
「まずは、監獄学園の新刊を買いに行くとするか」
最初の目的地として、メロンブックスへと、足を向ける。
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