第64話 大阪市中央区日本橋のカレーラーメン(麺160gヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ)
「疲れた、な……」
少々仕事が立て込んできて、脳味噌がやたらと披露しているのを感じる昨今。
「こういうときは、喰って癒やすに限る」
重力との戦いは続いているが、何、今ぐらい、地球と仲良くしてやるのも一興だ。
かくして、仕事帰りにやってきたのは、日本橋のオタロードにほど近いラーメン屋である。
「お、空いてるな」
細長い店内に足を踏み入れると,入り口付近のカウンター席が空いているのが目に付いた。
タイミングがよかったのだろう。ちょうど、前の客が食い終わるタイミングだったらしく、何人も客が出て行ったところだった。
「と、油断してるといかん」
食券機の前に付く頃には、もう後ろに何人か続いていた。入れ替えのタイミングというだけで、食事時はどんどん人もやってくるのは道理であろう。
「さて、今日は……うん、これだな」
食券を買い、給水器に手が届く入ってすぐの席に着く。
購入した食券は魚介つけ麺、カレーつけ麺、カレーラーメンと選べるものだったのだが、
「カレーラーメンで」
といいつつ店員へ出す。
勿論。
「麺は16gで。ニンニクマシマシヤサイマシマシカラメで」
定番のカスタマイズも忘れない。
こうして後は待つばかりとなり、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい~』を起動する。
今、まさかの『ローゼンメイデン』とのコラボイベントが始まっているのだ。
まきますか まきませんか
真紅、翠星石、蒼星石、水銀燈、雪華綺晶と契約できてしまうという、かつてのファンとしてはとても嬉しいイベントである。
砕かれた真紅のローザミスティカを集めて復元する、というストーリーで、ポイントを溜めると★4翠星石、★5雪華綺晶、★4真紅は手に入る。★5真紅、★5水銀燈、★4蒼星石はガチャでしか手に入らないので、残念ながら蒼星石しか手に入っていない。
だが、だ。
「ポイント集めまくったら、ノリ姉ちゃんでてきたりしないかなぁ」
『ローゼンメイデン』と言えば、やはりノリ姉ちゃんであろう。はなまるハンバーグ、食べたいです。
そんな妄想に耽りながら出撃すること一度。ローザミスティカも零さず六個しっかり集めてステージを終えたところで、注文の品がやってきた。
麺を少なめにしたことで、野菜が沈み、マシマシでもそれほどの山にはなっていない。普通の特盛り程度の量だろう。
野菜の山を囲む褐色の泉の周りをゴロゴロと豚の肉塊が麓を彩り、山の頂上にはニンニクの花が咲く。
全体に黄色く、輝いてさえ見える。
「中々素敵な風景だ」
とはいえ、眺めていても癒やされない。
食さねば。
「いただきます」
食材への感謝を述べ、まずはスープを一口。
「お、今日は優しい味だなぁ」
カレーのスパイスがスープによく馴染んでいて、いつもよりまろやかな気がする。
「まぁ、そこへニンニクを投入するわけだが」
頂上に鎮座していたニンニクを、こぼさないように山の周辺からスープへ浸して沈めていく。
「うん、まろやかさの中から、油断していると鋭いパンチが飛んできていい感じだ」
次は、野菜。
「お、今日のキャベツは、春キャベツなのか甘みがあっていいぞ」
そうして、麓に転がる豚へ。
ややパサついていたが、少しほぐしてスープに浸せば、旨みを纏って新たなステージへと上がってくる。
でも、ここまでは前座だ。
本命は糖質。
野菜を適度に減らしてアクセスを確保した麺へと、箸を向ける。
掴めるだけ掴んで口に含んだ麺を囓れば、いつものバキバキ感に満たされる。
「このしっかりと口内で抵抗してくる食べ応えが、最高だ」
麺を160gと普通の大盛りより少し多い程度に減らしているから、楽しみは減っているが、その分、周辺の野菜や豚を楽しめる。
何事も、バランスが大事なのだ。
「そう、だから、ここで一味だ」
三分の一程度食したところで、最初の味変。カレーに唐辛子は順当であろう。
表面が朱に染まる程度に振りかけて、カレー粉にプラスアルファされた刺激を楽しむ。
「更に、胡椒」
表面が黒胡椒の斑な黒と灰色に包まれる程度に振りかけ、また違う刺激を楽しむ。
とにかく、今は、食を楽しんで体調的にも精神的にも癒されるべきとき。
なら、
「一味と、胡椒だ」
両方の容器を振り回して、朱と黒と灰色のまだら模様を表面に描き。
箸でグルグル混ぜ合わせ。
レンゲで掬ってスープを味わう。
「ピリ辛だ」
多分、意味が違う。胡椒のピリピリした辛みと、唐辛子のヒリヒリする辛みが口内を満たし、妙な多幸感が脳を支配する。
スパイスは、一種のヤクだ。実際、漢方などで利用されるしな。
「ふぅ、なんだか今日はサクッといけてしまったなぁ」
余裕を持って野菜も豚も麺も平らげ、残るはスープのみ。
「流石に今日は十戒を守ろう」
と述懐して完飲の罪を回避する。
いや、あと少しだけ。
レンゲであと一口、二口、三口……十口。
これで勘弁しておいてやろう。
給水器からキンキンに冷えた水をコップに注いで口内を清め。
「ごちそうさん」
店を後にする。
「さて、腹ごなしに少しオタロード散策して帰るかな」
まずは、わんだーらんどだ。
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