第61話 東京都千代田区神田駿河台のつけ麺(ヤサイチョイマシ)+たまねぎ入れ放題

 君は、『ブルマ入れ』という競技をご存じだろうか?


 文字通り、ブルマを玉入れの要領でポール上に設置された脱衣籠に投げ入れるという競技だ。


 こんな頭のおかしい競技はフィクションだと思われるかもしれないが、2016年4月29日にベルサール秋葉原で開催された『ケイブ祭りが大運動回~汗と涙とブルマ~』というイベントでリアルに開催されたイベントだ。


 そんなケイブが、今年も同じ4月29日ベルサール秋葉原に祭りを開催するという。


 いかないなんて選択肢は、ない。


 かくして私は、『ケイブ祭り2017 ドキドキケイブの入学式~先生も胸ふくらむ春!~』へ参加すべく、朝から秋葉原にいた。


 物販整理券確保のために、始発で向かおうと思いつつ、年のせいか疲れが出て始発の時間に起きられずに寝坊して慌てたりしたものの、どうにかリカバリーして始発から三十分程度の遅れで済ませることができた。


 結果、そこそこの時間の整理券も確保し、ひと段落。


 祭りの終わりの時間からみて程よい時間の帰りの新幹線のチケットも取って、後は祭りを楽しむのみだ。


 だが、大阪の地からやってきて、それだけで帰るのも少し勿体ない。


 なので昼は、ベルサール秋葉原からほど近いお気に入りの店に行くことにした。


 開会式だけ参加して、足を御茶ノ水へ向ける。その間も、配信でステージの様子を確認できるのがありがたい。ラジオのように片耳イヤフォンで楽しみながら歩けば、


「よし、一番乗り」


 さっさと喰って会場へ戻るべく、開店直後の一番乗り達成。


「さて、何を喰うかだが……ここはつけ麺だ」


 色々なメニューがあるが、最近食べていないメニューを選んだ次第。


 席に着いて食券を出し、


「ヤサイだけチョイマシで、あとは普通に」


 と無難なオーダーで待つことしばし。


 いつもなら『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイするところだが、今は配信でケイブ祭りのステージから流れてくるIKD氏とジュンヤー氏の往年のケイブファンにとって感慨深い対談に耳を傾ける。次の新作は、この二人にシナリオで芝村裕吏を迎えてのものになるらしい。


 これは、楽しみだ。


 と思っていたら、前の席に、玉ねぎが出てきていた。


「たまねぎ入れ放題! そういうのもあったな!」


 危ない危ない。すっかり忘れていた。


 今ならまだ間に合う。食券を追加して店員へと渡す。シューティングゲームの被弾後のように、何事もリカバリが大事なのだ。


 引き続きステージの対談を配信で楽しんでいるうちに、注文の品がやってきた。


 褐色のスープにでっかい豚が入ったつけ汁と、山盛のヤサイの入った器がやってくる。


「これがチョイマシ、だと……」


 そうだった。この店の普通はマシマシだった。チョイマシは、その上を行く。因みに、麺は野菜の下に入っているのだろうが、全く見えない。


「ま、まぁ、大丈夫か」


 呆然としている間に遅れてやってきたたっぷりの刻み玉葱の入った金属容器もやってきて、注文の品は揃った。


「いただきます」


 まずは、野菜をつけ汁に浸して喰うのだが。


「おお、これなら、全然この量でも行けるな」


 豚の風味が立った濃い風味の中を、酸味が強引にさわやかにしていくような味のスープ。とても、食が進む味だ。


 だが、それなら、もっと攻めよう。


「ニンニクマシマシタマネギバカマシ」


 元々席に備え付けで入れ放題のニンニクを、スプーンに山盛り2杯、タマネギは山盛り3杯をスープへぶち込み、レッツ・ラ・マゼマゼ。


 更なるパンチが加わったと確信できるスープに、再び野菜を潜らせれば。


「正解だ」


 ケイブ祭りのステージでは、色々と対立したと評判のIKD氏とジュンヤー氏がそうしてぶつかりながらもいいものを創ってきたエピソードが披露されていた。


 それとオーバーラップするように、ニンニクのどぎつい風味にタマネギの辛味が喧嘩を売ることで、スープの味が更に引き立てていた。まさに仲良く喧嘩している、そういう印象だ。


 そうして、野菜を崩してようやく麺にたどり着いたのだが。


「あ、流石にスープが薄まってきたか……」


 浸透圧の関係で、どうやっても水分の多い野菜をスープに潜らせれれば水分が出て薄まっていくのは道理。


 まだ、今のままならいけるが、最後まで持つかは心許ない。


「いや、大丈夫か。調味料が色々あるからな……まずは、胡椒」


 備え付けのミルで挽いて、麺とヤサイに振りかけ、スープをくぐらせる。


「この刺激、ちょうどいい」


 薄まった分を埋めてくれる。


 だが、それも限界がある。


「そこで、カラメだ」


 席に備え付けられた黒い汁を投入すれば、文字通り醤油辛さの風味が復活する。


「……だが、まだ足りない」


 このスープ、最初はもっと酸味を感じたはずだ。


「なら、酢を入れればいい」


 必要なものは、全て用意されていて至れり尽くせりだな。


 かくして、つけ汁は薄まろうとも味を足し、豚の風味はそのもの豚を解して喰いながら補い、無事に食べ終えることができた。


 最初はどうなるかと思ったが、なんとなかなるものだ。


 最後に水を一杯飲んで口内を清め、


「ごちそうさん」


 店を後にした。


「さて、ここからは生でステージを楽しもう」


 ベルサール秋葉原へと、向かう。



 ところで君は、『おっぱい風船割り』という競技をご存知だろうか?


 キャラクターの身長に合わせて顔のイラストを付けて服を着せたマネキンの胸に入れた風船を割る早さと芸術点を競うという競技だ。


 ああ、今年も、ケイブはケイブだった。

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