第34話 大阪市中央区難波千日前の限定2(麺少なめ)

 どうにも疲れが抜けない。栄養が不足している気がする。ここのところ糖質を気にしすぎている嫌いがあるが、そのせいかもしれない。


 ならば、偶にはこってりしたモノも食べるべきだ。


 そして今日は、観たい映画もあった。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV 運命の前夜』である。前三作を劇場で観たので、『シャア・セイラ編』の一区切りとなるこれを劇場で見逃しては哀しすぎる。何としても観に行かねばならない。


 つまり今日は、こってりとシャアの日なのだ。

 

「ならば、なぜかシャアザクが店内にある打ってつけの店があるな。期間限定のも出てるし行ってみるか」


 そうして、仕事帰りに難波へ立ち寄り、肉すいで有名な某店にほど近い、この店にやってきた。


 開店直前で少し並んでいるが、これならすぐに入れるだろう。


 待ち時間には『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイして待つ。現在、宝探しイベントをこなしつつ変身しても眼鏡を外さない【氷使】リリーを転生させるべく親密度を上げているところだ。ローリングは少々癖があるが、ヒット数もそれなりに稼げるのでその練習にもなる。やはり、リリーは素晴らしい。


 そうして、出撃を一度終えたところで、店頭の看板に灯が入り開店となった。


 券売機では限定メニューの食券を購入する。


 カウンター席に着き、使い回しのため『限定2』とだけ書かれた素っ気ない食券を出し、ニンニク有り、そして、


「麺は少なめで」


 と注文する。流石に、いきなり300gはキツイ。その程度の自制はしておこう。


 そうして、ゴ魔乙の出撃を行いハイスコアも更新して気持ちいいところで、注文の品がやってきた。


「赤い、あの店内に飾ってあるシャアザクより、赤い」


 現在の限定は、辛坦々麺なのだ。


 いつもの豚出汁のゴマダレ辛味スープ。ニンニクは、隅っこに少し覗いているがほとんどは既にスープに沈んでいるようだ。


 具材はもやしとキャベツ、頂点には辛味噌。そして、豚はほぐしたモノが野菜の裾野に鏤められている。そして、全体に、粉唐辛子がばらまかれて赤い雪のように表面を彩っている。


 いい、色だ。


「いただきます」


 レンゲでスープを啜れば、ゴマのまったりした風味ににドギツイ豚出汁の組み合わせは、ジャンクで心地良い。だが、辛味はほどほどで、少々物足りない。


「そのための、辛味噌だ」


 辛味が苦手な人のために、別にしてあるのだろうが、私は気にしない。迷わず、全部をスープに入れて、混ぜ合わせる。


「よし、これで丁度いい」


 ここからが、本番だ。少なめにしたお陰で麺への導線確保は用意。

 いきなり麺だ。糖質だ。


「脳が生き返る……」


 糖は脳の栄養なのだ。基本的に頭脳労働の身なので、本来は控えすぎるのはよくないのだ。それでも、切実な問題があるのだ。危うく度数が上がりそうなにっくきBMI値を減少させねばならぬのだ。


 だからこそ、今、こうして思いっきり炭水化物を食らえる幸せを噛み締める。文字通りに。


 ゴマでまったりしている分、通常よりもしっかりと麺に絡みついてくるスープの旨み。辛味。存分に口中を楽しませてくれる。


 野菜も、ほぐした肉も、どれも、しっかりとスープを纏い、旨みを脳に届けてくれる。


 こうなると、もう、小難しいことを考えている場合じゃない。思うまま、感じるまま、食欲の赴くままに喰らうだけだ。


「くっ、少なめにしたばっかりに」


 楽しいときは、ただでさえ終わりが早い。なのに、少なめにすれば、更に早くなるのは道理。


 要するに、あっという間に終わってしまったのだ。


「いや、量より質だ」


 そう、短くとも、楽しめたから、それでいい。

 食事もエンタメなのだ。アトラクションなのだ。特に、この手の店では。


 名残惜しくスープを啜る手を止める。


 水を飲んで、一息入れる。


 丼とコップを付け台に上げる。


 コートを羽織り、荷物を肩に掛ける。


 そうして、ようやく。


「ごちそうさん」


 シャアザクに見送られながら、店を後にした。


「さて、劇場へ向かうか」


 夜の日本橋を、南へと下っていく。











 


 

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