第32話 大阪市浪速区難波中のラーメン(並)こってり(ネギ多めにんにくたくさん入り)

 外食を極量控えていた。

 いや、外食というより、炭水化物を控えていた。

 特に夕食。

 それもこれも、残酷なBMI値ゆえである。

 このままでは、上限からやがて飛び出す。

 ほとばしる熱い炭水化物欲を制御せねばならぬのだ。


 ともあれ、ずっと控え続けるのも気詰まりである。

 順調に数値は下がっているし、たまには、夜に喰ってもいいかもしれない。


 かくして、昼を控えて久々に麺を喰らうべく、仕事帰りに難波の南海電車にほど近いこの店に来ていた。


「ラーメンこってり並、ネギ多め、にんにくたくさん入りで」


 いつもと違い、セットにしなければ生ビールも頼まない。それぐらいの自制心。

 単品注文は数年ぶりなので、新鮮な気分になれる。その数年前は単品のときは夕食の前の軽い食事だったのだが、気にしてはいけない。


 『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』の新イベントに励もうかと思ったが、ガチャで速攻【長衣】リリーを確保できてしまったし、報酬もそこまで躍起になるようなものでもない。のんびりペースでいいだろう。


 なので、週刊少年サンデーを読んで過ごす。『だめてらすさま』はもう少しヤタさんの活躍が観たいところ。『天野めぐみはスキだらけ!』は三澤さんを交えたサービス回なのはとてもよい。『だがしかし』もほたるさんがいなくなってもハジメのお陰で安心。『絶対可憐チルドレン』は紫穂のターンで今一葵が目立たないが残念だ。


 めぼしいところをチェックしていると、麺がやって来る。


 黄褐色というか何というかポタージュ的な見た目のスープにネギの緑が映える。

 後は、シナチクとチャーシューが一枚、スープに埋もれるようにして入っている。

 この店の、変わらぬ個性的なラーメンだ。


「いただきます」


 まずは、れんげでスープを一口。


「熱っ!」


 どろり濃厚だがピーチ味ではないスープは、とにかく熱かった。


「そうか、いつもキンキンに冷えたビールと一緒だったから、余り気にしてなかったな」


 単品で頼んだからこその気付き。うむ、新鮮。


「でもまぁ、この味は、やっぱりいいなぁ」


 最近はドロドロ鶏白湯は増えてきていて、系統の似たものも出てきているが、やはりこの店の味は慣れ親しんだいい味だ。スープはセントラルキッチンで作ったものを使用している割に、支店ごとのアレンジが許されていて店によって味がまちまちだが、この店は基本に忠実な味なのがいい。


 炒飯もビールも邪魔しない状況で、純粋にこのスープの味と向き合うのも久しぶりだ。


 次は、麺。


「はぁ、炭水化物、幸せ……」


 久々に夜喰らう麺が、このドロドロのこってりスープに塗れているのは至福以外の何者でもないだろう。時折、シナチクが紛れてくるのも食感が違って楽しい。


「シンプルなチャーシューも、このスープの味で喰うのがいい」


 さっぱりした豚に纏わり付く鶏ガラ白湯ポタージュ。たまらん。


「ああ、ラーメンって本当、いいものだ」


 ストイックに向き合う一杯に、感動を覚える。断じて禁断症状が裏返った多幸感とかではない。


 ともあれ、量は並。ドカ盛り系ではない。


 あっという間に、スープまで飲み干していた。


「ごちそうさん」


 会計に一枚のチケットを出す。


「0円です」


 そう、今日は無料券を利用してのタダ飯でもあったのだ。


「さて、眼鏡が物語装置だったがゆえに最後に失われた『ふれるときこえる』の最終巻でも買いに、メロンブックスへ行くか」


 そのまま、夜のオタロードへと、繰り出すのだった。

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