第31話 大阪市中央区日本橋のラーメン(麺160gヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ魚粉)

 定期的に食べたくなる味というものがある。


 ここしばらく、健康診断の結果を受けて糖質を気にしつつ外食も控えてはいるが、完全に控えてしまってストレスを溜めてしまうのは、心の健康に悪い。


 また、ダイエット的な意味でも、必要以上に食べない状態が続くと体がそのカロリーで十分として、結果的に同じ量を食べても脂肪を溜め込み易い方向に体が調整されてしまって宜しくない。所謂、リバウンドしやすくなるという訳だ。


 故に、休日の昼ぐらいそれなりに食べても大丈夫、いや、むしろ食べて三歩進んで二歩下がるぐらいのことは受け入れながら進める方がよいであろう、という判断は科学的な見地に基づくものなのである。


 それに、食べたいものは、量はそこそこ多いにしても、とても健康にいい食事だ。たまに食べるにはうってつけに違いない。


 そうして私は最寄り駅の日本橋へ降り立ち、堺筋から西へ一つ入った通りを南へ向かって歩いていく。


 裏通りながら、最近は裏難波というような呼称で周辺に飲食店も増えてきて、特に夜になると賑わいを見せる界隈だ。


 直進すればオタロードへと繋がっているのだが、その手前に目的の店はあった。


 人がすれ違うのも厳しい細長い店内は、昼時を少し外したのが功を奏したのか、込み合ってはいたが並ばずに入れそうだった。


 オーソドックスに『ラーメン』の食券を購入し、空いていた席に着く。


 まずは店員に麺の量を尋ねられるので、


「160gで」


 と答え、次にニンニクの有無を尋ねられるので、


「ニンニクマシマシヤサイマシマシカラメ魚粉で」


 と答える。いつも通りの注文だ。


 まだ時間はかかりそうなので、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイして待つ。


 現在は、以前リリーメインのイベントの素敵なステッキ再びではあるが、主役を風の悪魔ルチカに譲っている。今のところ、新しいリリーは出てこないように見受けられるので、とても気楽に望むことができている。


 とはいえ、ショットランキングのようなものには参加したくなるのが人情。水と光のステージがあり、光は『愛夏姫プルメリア』、水は『愛傘リリー』と、ランキング対象のGODマグナムのキャラを主に使用しているので好都合だった。


 因みに、『GOD』は『激おこデンジャラス』の略なので間違えてはいけない。


 そんなわけでリリーでばかりもバランスが悪いのでプルメリアと交代でステージを周回してポイントを稼いでいると、注文の品がやってきた。


「ああ、これだ」


 黒い丼に、綺麗に山形に盛られた野菜。

 頂上に白雪の如く積もるニンニク。

 斜面を彩る魚粉。

 麓を飾る豚。


 とても、食欲がそそられる、安心のビジュアルだ。


 求めていたものが、そこにあった。


「いただきます」


 箸とレンゲを確保し、いざ、食べん。

 

 まずはニンニクをこぼさないように崩して、スープへと溶かす。


 そのまま、少量を口へと運べば。


「癒される……」


 醤油の風味に引き立てられた豚の濃厚な香りが口いっぱいに広がる。

 期待通りの味。自分の中で定番となった味。

 これを食べた買ったんだ。


 たった一口で、妙な満足感が広がってしまう。


「いかんいかん。まだまだ、まだまだあるんだ」


 野菜をスープに浸して喰い、更に体が喜んでいるのが解る。


 そうして、いよいよ、この時がきた。


 特にご無沙汰な炭水化物。


 箸にしっかと掴んだ麵へとかぶりつく。


「うぅ、旨い」


 太く硬く不揃いで噛み応えのある麺は、ニンニクが溶け込んだスープをしっかりまとって、麺自体の旨みとのハーモニーを奏でて脳へと容赦ない多幸感をもたらしてくる。


 ヤバい。そうか、麺って、こんなに美味しいものなんだ。


 頻繁に食べていたころには感じられなかった、しばらく間を開けたことで得られた、新鮮な喜び。とても得した気分だ。


 その喜びが残っている間に、豚にも噛り付く。


「うん、そうそう、チャーシューではなく、豚、これだ、これ」


 なんだか懐かしい食感と味に、全身に満ちていく食の喜び。


 思い切って食べに来てよかった。


 そう、己の判断を肯定し、


「さぁ、後はむさぼろう」


 食欲に任せて食べ散らかす。


 野菜、豚、麺と適宜思いついたものを食しつつ、時に野菜と麺が絡まった状態で口へと運んだりするのも楽しい。


 さらに、残りが半分以下になったところで、変化を加える。


「ええい、思い切ろう」


 黒胡椒と一味唐辛子を豪快にぶっかけて、かき混ぜる。


 見た目は、かなりグチャグチャでアレな感じになってきたが、不味いわけがない。


 ピリピリした刺激を豚と醤油の風味にプラスして、更なる食の喜びを謳歌する。


 幸せな食の時間。


「終わり、か」


 存分に味を楽しんで、もう、丼にはスープしか残っていない。


 名残惜しくレンゲで二杯ほど掬って飲んだところで、終わりを受け入れることにした。


 水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


 さて、ついでだ。オタロードを歩いて心の栄養も補充して帰ろう。

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