第22話 大阪市北区堂山町のラーメン
「なんだ、これは?」
梅田のマルビルで飲んだ後、〆のラーメンを頂こうと駅前ビルへと赴いた。
だが、駅前ビルは存外閉店時間が早い。めぼしい店は既にラストオーダーが終わり、準備中。何とか営業している店もピンとこない。
そこで、東通り界隈まで足を伸ばし、この隠れ家的なラーメン屋を見付けたのだ。
選んだ食券は、シンプルに『ラーメン』である。
今、注文の品が目の前にある。
鶏ラーメンを売りにしているところから、この、とろみのある灰褐色の白湯は馴染みのあるものだ。
ネギ、三つ葉、それに、細長い長方形の厚めのチャーシューというのも比較的オーソドックスと言える具材だろう。
ただ、魔女の尖がり帽子をさかさまにしたような、上面が広く、底面が中央で急激に細く深くなった丼は、少し変わった形ではある。
とはいえ、気になったのは、そこじゃぁない。チャーシューの上に鎮座する、薄褐色の粉がまぶされた、白いふわっとした物体だ。
これは、どうみてもあれだ。
夜店の屋台や、昭和の百貨店の地下ゲームコーナーなんかにあった、あの割り箸を入れてグルグル回して出来上がる、あの物体。
そう、綿飴だ。
それが、中央に、でん、と乗っているのだ。
そうなると、もしやこれはシナモンか?
疑問に思って、真っ先にレンゲで綿菓子にまぶされた粉を口に運んでみると、
「あ、すりごまか」
安心したような、どうせならそこまで突き抜けて欲しかったような、複雑な心境になる。
そんな第一印象のラーメンだった。
「では、いただこう」
レンゲでスープを頂けば、ドロッとしつつもあっさり目の典型的な鶏白湯の風味が口に広がる。悪くない。
ネギの辛み、三つ葉の苦みも、いいアクセントで、バランスのいい味である。
が、そこまで食べるうちに、
「綿菓子が……消えた……だと?」
ちょっとスープを吸った途端、あっという間に消えてしまった。
儚い。なんと儚いのだ。
しかし、過ぎ去ったものにとらわれてはいけない。ラーメンを喰いに来たのだから、麺を頂こうではないか。
ここでようやく、箸で麺を啜る。
「うん、この中細ストレート麺、スープの絡み具合が中々いいな」
食べごたえがありつつ、重くない程度の太さの麺ののど越しは、オーソドックスながら手堅い味である。
「では、ここで、チャーシューを……」
これが、罠だった。
「甘っ!」
なんと甘い味付けだろう? まるで、砂糖を舐めているような……
「って、溶けた綿菓子、全部チャーシューに絡んでやがる!」
という訳で、トロットロでそのままでも十分に旨みと甘みを含んだところに、露骨な砂糖の甘みが加わり、これまでのオーソドックスな鶏白湯の味に強烈なカウンターを加えてくれた。
「いや、うん。でも、これこそが食の楽しみだ」
手堅いと思ったところで、ぶち壊してくれるサプライズ、悪くない。
しっかりと初見のラーメンを楽しませてくれたのだから。
飲んだ後は、食欲は旺盛になってしまうのは人の常。
量的にもオーソドックスなラーメンは、汁も残さず消えていた。
「ごちそうさん」
店を、後にする。
そういえば、あの丼の形を、魔法少女の帽子のようだと例えたが、今、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』のリリーは魔女ルックに身を包んでいる。だからこその連想だ。
いや、確かに、めがねっ娘に覚醒する前は魔法少女や巫女属性が強かった。でも、今は巫女魔法少女めがねっ娘、めがねっ娘に重きを置くのが我が信仰なのである。
「さて、帰ったらリリーの親密度を上げよう」
地下街へと足を踏み入れ、家路を辿る。
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