Fifth Step 紹介する

「かっくん早く行くよ!ってこのひとたちは??」


女子生徒はこちらに不思議そうな目線を向けていた。指を口にあてて、いかにも疑問、といった感じのジェスチャー。少しあざとくないだろうか …


「お邪魔してすみません、一年の石切です。」

「あ、阿倍野です。」

石切の歯切れ良い挨拶に続き、自分も挨拶する。


「どうも、三年の布施です!…あれ、あなた」

布施と名乗った彼女がまじまじとみつめてきた。

「朝、遊歩道でかっくんとぶつかったあの子?」


朝の遊歩道…。そういえば。


今朝の記憶を思い返してみると、菖蒲が可愛い可愛いと騒ぎ立てていたあの人じゃないか。偶然なのに今日二回も合うとは…


「あ、たしかに。あの、今朝はお騒がせしてすみません。ぶつかったあの方は大丈夫でしたか?というか、、、」


「この方ですよね…⁇」


僕の目線の先にはヒントをくれていた銀縁眼鏡の男子生徒。


すると布施さんは可笑しいという顔をしてホワイトボードの方を指した。

「うん!ピンピンしてるよ。」


彼が口を開く。

「君、今朝ぶつかってしまった子だったか。すまないね。」


「あ、いえ…そんな。」


「え、阿倍野くんもう先輩に知り合い作っちゃったの!?同じ中学とか?」

石切さんが目を丸くしてこっちを見ている。


「いや違うよ、これは」


僕は今朝のことをざっくりと石切さんに説明する。


「阿倍野くん生物部のひとと知り合いになってるなんて、ちょーすごいじゃん!もう部員だね!」


「いやいや、何言ってんの。僕はこのストラップの持ち主を石切さんと探しにきただけじゃないか。」


「でも折角知り合いになったんだし、仲良くしないと悪いよ〜」


「入るのとこれは違うと思うけど…」


石切さんはむーっという顔をして、こっちを睨む。


するとすぐに布施先輩の方を向いて、話し始めた。


「布施さん!それと、えーと…」


「桃山だ。桃山角。よろしく。」


男子生徒が眼鏡をクイッと押し上げつつ、立ちながら答える。

なかなかに身長がある。


「はい、桃山先輩!ここって生物部なんですよね。」


「そうだよ。」


「わたし、入部します!生物のこと、いっぱい喋れるひとを見つけに岩多高校に来たんです。だから、ここなら出来ます…よね…??」


石切さんはサイドポニーを少し傾けながらそういう。


「もちろん。そういう話は僕が大好きだからね。相手をするよ。まぁ、生物部といっても、そこのしーちゃんはダメダメだけど」


ハハハと軽い笑いを立てながら桃山先輩が言う。


「かっくん!」


布施先輩が嗜める。


「やった〜!夢の生物ライフ〜!夢のバイオライフ〜!」


石切さんは小躍りしている。

どれだけ生物のことが好きなんだ…。


「あ、そういえばしーちゃん。彼らがこのストラップ届けてくれたんだよ。」


桃山先輩がストラップを指にかけてぶらぶらさせた。さっき僕らが解いたやつ。


「そうです!私たちが届けました!’しとり‘先輩!」


「え、なんで私の下の名前知って…。え、まさかこのストラップ見て解いたの!?」


さっきこのストラップを解いて出てきたのは「ふせしとり」という文字列。会話からするにこの布施先輩が持ち主だろう。なら布施先輩の下の名前は…。


「すごーい!石切さん…だっけ?作ったかっくん以外でこれの意味知ってるの、これまでわたしだけだったのに!」


「えへへ…でも解いたの私だけじゃないですよ!ここにいる阿倍野くんも!」


突然の紹介ですこし吃ってしまう。


「ま、まぁ多少ですけど…でも石切さんの生物学の知識と桃山先輩がくださったヒントがなかったら無理だったと思います。」


「なるほど〜君たち中々にするどいね〜!」


その後も、石切さんと布施先輩、桃山先輩はわちゃわちゃと何かを話していた。


石切さんは生物部の活動日やなんやらを聞いていたが、僕は生物部に入るつもりはなかったのでそのあとすぐお暇することにした。


とにかくストラップ事件が一件落着してよかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る