Fourth Step とける
「みつぐみってなんだ…」
阿倍野はなんのことやらという感じ。
石切が楽しそうに答える。
「塩基のトリプレットのことですよね!」
奥で、優しく男子生徒が微笑んでいた。
「そのとおりだ。」
「DNAは塩基の並び順によって規定されているの。DNAにおける塩基の種類は4つ。アデニン、シトシン、グアニン、チミン。それぞれA、C、G、Tと表現されるの。そして、この4つの塩基からえらぶ3つの並び方で、一つのアミノ酸を呼び出す。」
「なるほど、つまり4の3乗個の組み合わせがあると。」
「そうそう!やるねえ!」
男子生徒が目を輝かせてそう言った。
「じゃあ、このストラップは赤、青、緑、黄色の四色で構成されてるけど、これはそれぞれの塩基を指しているわけか。」
よく見ると、複雑な構造の中にはビーズのひとかたまりがあり、それぞれの塊は同じ色で構成されていた。赤の塊の対には必ず黄色の対が、青の塊の対には必ず緑の塊の対がある。この塊ひとつが塩基、というものらしい。
塊は縦に15個並んでいて、対の列も同じように15個並んでいる。
「これ2つの列が対になっているように感じるんだけど、どういうこと?」
「DNAは2つの鎖が対をなすようにできているんです。片方の鎖がわかると、片方の鎖も自動でわかるようになっています。どっちが5'なのかはわかりませんが...」
石切は得意気に答える。生物オタクにとっては常識らしい。
しかし最後に言った5'とは何だ...
ストラップのチェーンは片方の鎖の一方につけられていたので、ここが始まりだということだろう。石切曰く、この始まりがどこかが重要だという。
男子生徒がここで口を開いた。
「ヒントをあげよう、今言ってくれた順でA、C、G、Tだ。」
「ならこのDNAがどんなアミノ酸をコードしてくるかわかる!」
石切の目は輝いている。
石切はカバンから紙とペンを取り出すと、早速ストラップの色の配列を変換していく。
「変換終わったよ!」
石切は紙にACGT3つずつの配列を書いた。
「えっと、このストラップは15個列だよな。ということは、みつぐみで区切っていくと、5個のアミノ酸が示されてることになる。」
「そうだね。安直だけど、5個ってことは5文字の日本語なのかも...?」
「そうかもしれない。なら5つのアミノ酸が指してる文字はそれぞれなんなんだろう...」
二人は頭を悩ませる。
阿倍野は少しひらめいた。
「単純に順列で考えてみよう。ACGTの3つ組み合わせの順列をあいうえおかきくけこ、に当てはめるんだ。」
阿倍野が言っているのは、AAA,AAC,AAG...という順列を50音に順番に当てはめて、先程の5つのみつぐみを日本語に変換しようというものだ。
「おー!阿倍野くんいいね!じゃあやってみよう!」
石切は嬉しそうに言う。
二人で順列を書き出して、対応表をつくる。
「えーっと、ふ、せ、し、と、り、??」
その瞬間だった。生物実験室のドアがものすごい音を立てて開いた。
ドアの前にショートボブの女子学生が仁王立ちしていた。
「もうーーーーー!!!かっくん!!!なんで読書感想文出してないの!?先生探してたよ!?」
彼女が男子生徒に向かって叫ぶ。
「正解だ」
男子生徒が苦笑しながら、こっちを見て言った。
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