強引なキス

次の土曜日あゆむの教えている道場の小学生達の試合が大きな体育館で行われた。

あゆむはゆりをおんぶして、会場に入る。

「ゆりちゃ~~ん」と声をかけたのは小学生の母親たちだ。

百合は母親たちとはお友達たまに「女子会」なんかをする。

彼女たちも百合の「障害」には関心が無い様だ。

「ゆりちゃん、事故ってたいへんだったわね。でも顔はいいから大丈夫よ。聞いたわよ、若先生に逆ナンしたって話。それに比べると、私たちは顔が「障害」なのよ」といって大笑いする。若先生とはあゆむのことだ。


とりあえず、百合をおぶって母親たちのいる観客席に行き、大事に下した。

「お願いします」と頭を下げると「大丈夫よ。ここには男は立ち入らせないから」と母親たちは真剣な顔をした。「おっす」そういうと試合会場にいった。

「がんばってね」の百合の声に「おう」と返事をした。


「いいか、剣道というのは相手を倒すんじゃない。己に勝つんだ」と子供たちに言う。子供たちの目には気合がこもっている。

そして試合が行われた。


結果は2回戦敗退。だった。しかしあゆむは「よくやった。勝つだけが剣道ではない。いい試合だったぞ」子供たちはそう聞くと「誇らしげ」になる。

試合が終わってもすぐに帰宅というわけにはいかない。

ほかの試合の手伝いをする。しかしそこから学ぶことも多い。

12時を少し過ぎて、それも片付き。とりあえず、「お昼」という事になる。

「さあ、召し上がれ」百合はそういうと大きなお弁当箱が4つ入っている風呂敷を広げた。ふたを開けるといろいろなおかずが入っている。

「さあ、腹が減ったろ。たべろ」

「わー」子供たちが群がる。

あっという間に弁当箱は空になり、それでもお腹がすいた小学生は母親のお弁当箱をたべる。

「あゆむくん。はい」と百合は小さな弁当箱を開けた。

中には「愛妻弁当」並みの手間がかかる料理が入っていた。

「あ、いーなー、そのお弁当」

小学生がこれをみつける。

「これは。。だめだ。」そういうとあゆむは立ち上がり、弁当を食べた。

中には約束通りのたこさんウィンナーが入っていた。



いったん、道場に戻った後,板垣に試合結果を報告する。

「いいのさ、負けても。。しょせん、竹刀の立ち合いだからさ」といつものように言う。


道場を出てあゆむは百合の車椅子を押して帰路に就く。

「この前あゆむくん、とっとと帰っちゃったじゃない。お父さんがね次は逃がすなよっていってた」

「そうか、じゃあ、今夜は飲むか」

「おかあさんが唐揚げ作って待ってるって」

「おお」あゆむの大好物である。

あゆむは百合の両親から信頼されている。


「あのな。。。」といって車椅子のブレーキをかけた。

百合の前に立つと百合の正面に立った。

手には指輪のケースが入っている。

しゃがんでケースを開けて

「け」


「結婚してください」

「え?」百合は戸惑った。

「だって私、こんな体だし。。。それにあゆむくんのご両親にもご挨拶してないし。。」

「いいんだ、もう挨拶はできないから」といった

「え。。」


しばしの沈黙の後あゆむは口を開いた。

「おれが10歳の時両親が自動車事故にあって、、、父親はそれで亡くなった。」

「母親は車いすで生活してたんだが。。。15の時に、、、ね」

「。。」百合は声が出なかった。

「それから伯父さんの道場で剣道一筋だった。」つまり板垣は伯父にあたる。

「あの時困ってる百合をみつけてさ。母親を思い出してしまって。お前が遠慮してるのに。。無理やり助けてしまった。 きっと「おふくろの姿」と重なったのかもしれない。」

「マザコンなんだ。。。。」

「そうだよ。でもそれ以上にお前が好きだ」

そういうとあゆむは百合にキスをした。

ゆっくりと時間が過ぎて、唇ははなれていく。


「あ。」

「だめだよ。サインがないのに。。」

「あ」あゆむは忘れていた。

「でも、これからは死ぬまで「サイン」守ってね」

百合は微笑む。




一年後 二人は結婚式を挙げた。あゆむの父代わりに板垣がいる。

百合の父親は泣いて泣いて、母親が困っているのを二人は見た。

車椅子の花嫁がバージンロードをあゆむに押されて進んでいく


そして神父が約束のキスを促す。

あゆむは「百合の目」を見た。

百合は両目をつむっている。

躊躇(ちゅうちょ)するあゆむに

「馬鹿」

といって百合は両手にあゆむの頭を目の前に持ってきてキスをした。

百合は心の底から「嬉しかった」


            完

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彼はいつもしゃがんで「キス」をしてくれる。 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya

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