第6話 『浸入』
轟! 鳴り響く爆音が開戦の合図だった。
カムアセの庭園で、魔王を倒した英雄同士がぶつかる。
「まずは小手調べだ。カエン!!」
先に動いたのはブリュッセルだ。彼は持っていた剣を引き抜き、呪文を唱える。クリフの物とは比べ物にならない――直径三メートルを超える火球がアルフォンスを襲う。
その火球を見ながら、アルフォンスは口元を緩めた。
「だいぶ魔法が上達したじゃないか。僕も剣技を頑張らなくてはな。でも――まだ甘い」
アルフォンスは落ち着いた様子で指を鳴らす。地面を削りながらアルフォンスに近づいていた火球が不意に姿を消した。直後――遠く離れた平原から煙が上がった。アルフォンスが空間転移させたのだ。
「剣士が魔導士に魔法で勝てるわけないだろう」
「はっ! 剣を抜いたら館がぶっ壊れちまう」
アルフォンスが冷たく微笑み、ブリュッセルは朱色の髪を揺らしアルフォンスへと向かってくる。剣は未だ抜かれていない。
「舐められたものだね。でも、僕も君を相手にしている暇はないんだ」
アルフォンスもブリュッセルへと向かって走り出す。彼らが交錯する瞬間――アルフォンスは再び指を鳴らした。
次の瞬間――アルフォンスは内臓が浮かぶ独特の浮遊感を味わっていた。
場所はカムアセの館内部。あそこでブリュッセルを相手にしていると、中にいる兵士たちの気を引けないため空間転移魔法を使って内部まで転移してきたのだ。
「ブリュッセルには悪いことをしたな。まあ仕方ない。では、ひと暴れするか」
アルフォンスは指を鳴らす。手の中に魔導書が現れる。
「魔導書――『紅蓮の書』第二章 『獄炎』より『バーンフレア』」
アルフォンスを中心に、獄炎が昇る昇る。火炎の輪がアルフォンスが落ちていくに連れて出来る。
そして、屋敷の全ての階層を狙って――炎の輪が爆発した。
ふわりとアルフォンスの身体が浮き、床に着地する。
「爆発だああああああァァぁぁぁ!!!」
兵士が叫ぶ声が聞こえる。
「この炎、もしかしてブリュッセル様のか?」
「あのお方、裏切ったのか?」
「やると思ってたんだよなぁ」
兵士たちのブリュッセルに対する散々な評価にアルフォンスは苦笑いする。
「相変わらずだなブリュッセル」
瞳を閉じ、百年前の事を思い出す。
何がどうなって今彼らは相対しているのか、それすらも彼は分からない。分からないから、調べるしかない。かつての仲間を取り戻すためにも、他の仲間を見つけるためにも。
「さて、暴れるか」
アルフォンスは決意する。持っていた魔導書を開く。
さあ暴れろ。かつての仲間のために、今いる仲間のために。
――――――――――
耳をつんざくするような轟音が辺りで響いた。
「おいルーシィ ノルン 無事か!?」
「大丈夫だよ。きっとアルフォンスさんが放った魔法だよ」
「おう。そう……だな」
場所は小汚いダクトの中、魔水晶獲得のためにクリフの『共感覚』を頼りに進んでいる。
「ねえクリフ。ショック受けてるところ悪いんだけど、もう直ぐカムアセの部屋だよ」
ステルスで見えないが、ノルンはクリフたちのやりとりを見て、よだれを垂らしてニタニタと笑っていた。
「何でクリフがショック受けてるのよ」
「相変わらずあれだね。鈍感だね」
「別に受けてねえし」
ルーシィは何にも気づいていない。それを見たノルンがまた笑う。対するクリフは機嫌を損ねてそっぽを向いてしまう。
「俺だって、これからあいつに負けないくらい強くなってやる」
「静かにして。もうカムアセの部屋だよ」
「あ、ごめ――」
カムアセの部屋の通気口から、カムアセの部屋を覗く。魔水晶はまだ先だが、ここでカムアセの動向を確認しておきたい。
「何だと!? 屋敷内で爆発だあ!」
「今確認中ですが――」
「うるさい! ああ、ああ、どうしましょうか。
カムアセは腹に蓄えた脂肪を揺らし、怒鳴り散らす。
「
「エサ……だと」
クリフの拳は震えていた。身体の内から沸いてくる怒りの感情を留める事が出来ない。
「兄さんが、エサだと!」
「ちょっとクリフ、うるさいよ」
小声でノルンが嗜めるが、もはやクリフは聞く耳を持たない。
「何ですか? 上に誰かいるんですか?」
カムアセが脂でギトギトになった醜い顔を上へ向ける。金のイヤリングやネックレスが彼の異様さを嫌というほど伝えてくる。
「調べなさい。魔水晶の件ですが、いくらあんな奴隷の家畜野郎が元でも魔水晶になったら価値が生まれるんです。だから、絶対に遅れることは許されませんよッ」
「俺たちや、死んで行った兄さんたちが家畜野郎だと……許せねえ、もう、限界だ」
クリフは勢い良くダクトの扉を蹴り破った。そのままカムアセの部屋に飛び降りる。
「「クリフッ」」
「喋んじゃねえお前ら! バレるだろ先行ってろ俺はこいつをぶち殺す」
ルーシィとノルンの叫び声が聞こえたが、彼女らの事は見えない。
「兄さんは連れて行かせない。兄さんは俺が連れ戻す! 俺たちは人間だ。家畜なんかじゃねえ」
クリフは震える足に喝を入れて、中指を立てる。
「俺は強くなるんだ! あいつみたいに、誰かを助けられる奴になる! ルーシィを守ってやりてえんだ! 兄さんを取り返してえんだ! 魔獣なんかのエサにしてたまるか!」
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