第5話 『再開』
「懐かしい。これは剣王の魔力か」
カムアセの館へと続く林道で、アルフォンスは五英傑の魔力を感じ取っていた。肌を突くような荒々しい魔力――これは剣王 ブリュッセル・アルバードの物だ。
大魔導士 アルフォンス・ヴァン・アーノルドと同じく魔王を討伐した一人、剣王 ブリュッセル・アルバード。彼もまた、アルフォンス同様に長い間姿をくらましていたらしい。その彼が今――アルフォンスと対峙しようとしている。
「どういう事ですか?」
「いや、昔の仲間が近くにいるようだ。君たち、付いてくるならば気を付けた方が良い」
「気をつけるも何もはなっから帰る気なんて無い」
不安気なルーシィとは打って変わり、クリフはその琥珀の瞳を静かに燃やしていた。その右拳は力強く握られていた。
「成る程。では、ノープランだったが作戦を立てよう。君たちは魔水晶の捕獲に徹してくれ、僕は館で暴れて気を惹き付ける。兵士の一人や二人が君たちを攻めても問題無いだろう?」
「当たり前だ」
カムアセの館は城下にある。騒げば城の兵やカムアセの私兵が動く。彼らがアルフォンスに気を取られている間にクリフたちは『共感覚』を用いて魔水晶及びグランを奪還する――という作戦だ。穴があると言えばありまくりだが、兵士の注意は十分に引けるだろう。それだけ派手な魔法を、アルフォンスは使えるからだ。
「そろそろ城下に入るぞ」
林道を抜け、目の前に煌びやかな城が見え始めた。
「僕は派手に暴れる。君たちは静かに素早く盗んでくれよ」
――――――――――――
場所は城下町の貴族街。カムアセの館は貴族街の端にある。商店街との境目だ。アルフォンスたちは今、カムアセの館の林の中に隠れている。
「カムアセの館の構造、本当に理解してるのか?」
「もちろんです。私の頭の中にしっかり入ってますよ」
そう言って自慢気にお下げ髪を揺らすのはノルンだ。控え目な胸を張っている。なんでも、記憶力や頭の回転が早い事が取り柄らしい。彼女の姿はアルフォンス以外の人には見えない。彼女らには今――光魔法の応用でステルスがかかっている。城下に入る前にアルフォンスがかけたのだ。
「クリフ。お前にステルスはかけないぞ。お前が見えなくなっちゃルーシィやノルンが大変だからな」
「大丈夫だ。簡単にはやられねえ」
クリフは拳を握りしめ、胸に手を当てる。深呼吸をして、精神を落ち着かせた。
「じゃあ行ってきます」
ルーシィは、アルフォンスに軽く手を振りクリフの元まで歩き出す。
ノルンに手を引かれ、クリフは館の裏道へと入って行った。ルーシィもそれに続く。
「さてと、ここからは僕が頑張らなくてはいけないな」
アルフォンスはルーシィたちを見送り、草むらから立ち上がる。目の前にそびえ立つ無駄に金ピカな館を見つめてため息をついた。
「ブリュッセルの奴はこんな悪趣味な奴の手下に成り下がったのか」
「ふざけんな馬鹿野郎。俺がこんなド三流野郎なんかに従うかよ」
館の入り口の前で、火炎がうねりを上げた。アルフォンスはその光景を瞬き一つせず見つめていた。
その爆煙の中に剣を持った男が一人、悠然と立っていた。
「久しぶりだなブリュッセル。百年ぶりか?」
「そうだなアルフォンス。てめえが引きこもってる間にこっちでは色々あったぞ」
朱色の髪をかきあげ、鋭い瞳をアルフォンスに向ける。白い礼服を揺らしながら、ブリュッセルはアルフォンスに近づいて来る。
「相変わらず見た目は弱々しいな。それでいて強いから腹が立つ」
「お前も相変わらず荒々しい。それでいて優しいから好意が持てる」
それを聞いたブリュッセルは小さく微笑んだ。そして、冷たく笑う。
「そうだなあ。俺は少し甘すぎた。だからかもな魔王を倒してそれで終わりだと思ってたんだ。だから、俺は彼女を失った」
ガチャリと、持っていた剣を揺らす。
「俺は俺のために行動する。例えそれが間違っていたとしてもだ」
剣を顔の前に掲げる。瞬間――炎が爆発した。
「だから奴らの邪魔はさせないぞアルフォンス。すまんが足止めさせてもらう」
「そういうところが君らしいんだよ。ブリュッセル」
アルフォンスも指を鳴らし、魔導書を手に持つ。
魔王を共に倒したかつての仲間と今――戦おうとしていた。
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