第4話 『感じる魔力』

「本当にありがとうございました」「ありがとうございます」「本当に助けて下さるんですか?」「一生忘れません」


 アルフォンスの前で、何人もの村人が頭を下げた。時は明朝。アルフォンスはこれから魔水晶を調べる為、グランを人に戻す為、カムアセの館へと向かう。


「大丈夫だよ。気にしないでくれ。それより本当にこの子たちを連れて行って良いのかな?」


 アルフォンスは照れ隠しでクールに振る舞う。そのまま話題をルーシィたちに切り替えた。


「むしろこちらからのお願いです。足手まといになってしまうかもしれませんが、グランの仇を討たせてやってください」

「了解した」


 そう言ってアルフォンスは歩き出す。その先に待っているのは馬に乗ったルーシィたちだ。


「本当にありがとうございますアルフォンスさん」

「まだグランは館にいるぜ。絶対に兄ちゃんを助けような」

「迷惑をかけますがよろしくお願いします」


「では頼んだぞクリフ。君について行くから」


 そう言ってアルフォンスは馬にまたがる。この馬は村を襲いに来た兵たちが乗っていたものだ。


「本当にありがとうございましたぁ!!!」


 何人もの村人がアルフォンスに向かって手を振っている。


「何度経験しても感謝されるという事は心地良いものだな」


 アルフォンスは小さく微笑み、控え目に手を振る。白いローブをたなびかせ、馬を走らせて村を出た。


 ――――――――――


 木々の間から光が漏れる。弱々しい木漏れ日に打たれながら林道を馬にまたがりひたすら走る。アルフォンスは、その間ひたすらに魔導書を読んでいた。


「あの〜アルフォンスさん。いったいどうやってその本を取り出しているんですか?」


 アルフォンスの隣に馬を移動させて来たのはルーシィだ。彼女は手をもじもじさせて控え目に聞いてくる。


 この数十分でアルフォンスが読破した魔導書の数は数十冊にも及ぶ。読みきるのも困難だが、その魔導書をどこに隠し持っていたかの方が気になるのだろう。


「これは時空転移魔法で移動させて来たんだよ。どことは言わないが近くに僕の魔導書庫があってね。そこから魔導書を転移させているんだ。というか、これが僕の特異魔法だよ」

「特異魔法……教えてくださって良いんですか?」


 特異魔法――それは人一人につき一つだけ与えられる八属性以外の特別な魔法の事だ。つまり、特異魔法とは相手には絶対に分からない切り札のようなものだ。


「大丈夫だよ。僕の特異魔法は時空転移ってわけじゃないからね。それに転移させて来た魔導書に従えば八属性魔法も適性のある二種類だけじゃなくて問題なく全て使えるから」


 八属性魔法――火 光 水 雷 風 闇 土 木を司る魔法の事だ。普通の人間ならばこの中から一属性 多くて二属性の魔法しか使えない。しかし、魔導書に導かれるのならば話は別だ。


「という事は……切り札を見せなくとも何千 何万という魔法を使えるという事ですか!?」


 驚きの声を上げたのはルーシィの隣を走っていたノルンだ。彼女のお下げ髪が驚きにより激しく揺れる。


「まあ、そういう事だね」

「これならカムアセも余裕なんじゃないですかね?」


 ルーシィの横で、ノルンはよだれを垂らしながら下品に笑う。


「確かに、カムアセとかいう奴は瞬殺できるかもしれない。だけど、魔水晶に関しては僕にもどうなるか分からない。今、魔導書を使って魔水晶について調べているんだけど、やはり何も情報が乗ってない」

「そうですか……」


 つまり、魔水晶はペティが持ち出した魔王の最低最悪の魔導書であり、魔水晶はそれに関係する最低最悪の魔法であるという事だ。


「一刻も早く魔水晶を理解しなくては、手遅れになってからじゃ遅い」

「そうだ! カムアセを早くぶちのめして、グラン兄ちゃんを助け出すんだ!」


 声高らかに叫んで拳を突き上げたのはクリフだ。アルフォンスはそれを見て微笑む。そして、同時に感じ取った。


「この魔力……」


 それは非常に懐かしい魔力。そして、凄まじく強い魔力だ。その魔力は明らかにアルフォンスに対して敵意を向けていた。


「皆んなすまんな。どうやら一筋縄じゃいかないみたいだ」


 その時――アルフォンスはかつての仲間の敵意を持った魔力を色濃く感じていた。


 ――――――――――


 そこは暗い部屋だ。明かり一つ無い暗い部屋。椅子やタンス、机にシャンデリアなど――家具は全て金で出来ていて、持ち主の趣味の悪さを存分に引き出している部屋だった。


「おいカムアセ、俺をこんな悪趣味な部屋に入れやがって」


 豪快に椅子に腰掛け、机の上に足を乗せる。


「す、すすす、すみません!」

「謝るくらいならしっかり働けよな。せっかく終焉の書を貸してやってんだ。少しはてめえの金にもなってんだろ? 魔水晶のノルマは達成してくれよな」

「はい! しっかりと働かせて頂きます! 五英傑・・・の一角である貴方が来てくださるとは夢にも思わず……」

「分かってんなら良いんだよ。俺には俺の仕事があるからな」


 五英傑の一人は側にあるカーテンを開け、窓の外を眺める。


「ここにある魔水晶は早いとこ迷宮ダンジョンに移動させとけ、もうじき俺じゃ無い五英傑の一人がここに来る」


 五英傑の一人は頬を緩ませた。


「久しぶりだなアルフォンス。百年ぶりくらいか。まさかお前と一戦交える事になろうとは思わなかった」


 そう言って、五英傑の一人は静かにカーテンを閉めた。


 百年の時を経て、五英傑と呼ばれた英雄二人が再開しようとしていた。

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