つれていって、ここではないどこかへ

作者 古池ねじ@木崎夫婦4/13発売

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★★★ Excellent!!!

 メディアにいっさい露出しないミステリ作家・園田晶にだめもとで送った、長い長いファンレター。
 それがきっかけで生まれた交流から、ついに大学生・笹野は園田と会うことに。
 笹野の前にあらわれたのは、とても美しい女性だった。
 十四も年上の彼女には、夫がいる。けれど笹野は、会うたび惹かれていってしまう。

 はじめは落ち着いた印象だった語り手の笹野が、サークル内の人間関係の変化をきっかけに、園田へのあこがれを強め、暗い熱を帯びていく様子がとてもおもしろい。
 過熱していく後半になると、笹野はどんどん傲慢になっていく。相手も同じ風に思ってくれているはずだと、自意識をふくらませていく。
『僕だけが、園田さんを本当に理解できる。』
『僕の体の中には、彼女の言葉が詰まっている。彼女のそっけない、けれども正確で、力強い言葉が、僕の皮膚の内側に』

 そして笹野の止めようがない気持ちを描いてからのあのラスト。
 それでも間違いなく笹野は、園田晶に恋をしていると思うし、これからも恋をし続けると思う。
 笹野が本当のことを知る機会はもうないけれど、それを悲しいとは感じなかった。
 むしろこのかたちだからこそ起こり得た恋情に、あらためて人のおもしろさを感じた。