第3話
転校して間もないということでわたしは三人のことをクラスメイトに聞いてみた。
教室移動中にて。
「雉日さん?そうね…やっぱりすごい明るいって感じかなぁ。困ってるときに話しかけやすいし、向こうから声かけてくれるし。あ、でも拾った子猫を段ボールごと三匹ももってきたときはびっくりしたなぁ、教室ん中大騒ぎで。そういう意味ではトラブルメーカーかもね」
体育館にて。
「えりみにはお世話になってるよほんと。うちのクラス委員長ってほら、あれだからさ、どうしてもみんな頼っちゃうわけね、えりみに。ほら今だって、体育の時間をまとめてるし、先生もまずえりみに教えとこうって感じで、まあそれでいいんかい、とも思うけどね」
掃除中廊下にて。
「示神さんは一言でいえば、まさにミステリアス・ガールでしょ」
「って言ってたんだけどね」
「それ、あたしたち本人に言っちゃう!?」
第三話:ミステリアス・ガール
すっかり日常の一風景になった下校道をやっぱりいつものように五人でわたしたちは帰る。七々ちゃんはわたしの腕の中、というか結構な大きさのスピーカーだしそうしないと持てないだけなんだけど。そうして校門を出た辺りでわたしから話を振ってみた。すぐに照葉ちゃんにダメ出しされたけど。
「そういうのは本人が聞かないってわかってるからみんな言ってくれたんであって、ちゃんと自分の心の中に仕舞っときなさい」
照葉ちゃんに続いてえりみんちゃんもわたしにダメ出し。むぅ。
「そう言いつつもえりみんさん、実はかーなり内心喜んでますよねぇ」
わたしの抱えるスピーカーから、というか七々ちゃんが冷やかしを挟み込む。
「別に、うれしいとかそういうんじゃなくて、ほら聞いた人に申し訳がたたないとかそういう話なんだから…って、詩絵もそんなにやにやしない!自分のことなんだからね!」
照れてるのを隠そうとするえりみんちゃんのとばっちりはわたしにもきて、ぎにゅーとほっぺをつねられる。
「いいじゃん、えりみんは褒められてんだし。あたしなんてトラブルメーカーでしょ、心外心外、大心外」
腕を頭の後ろに回して歩く照葉ちゃんはそういうけど。
「いいや、それはもっともですよ」
「うん」
「こればっかりはわたしも賛成」
わたしたちの想いは一つなのだ。
「心外!」
ふてくされる照葉ちゃんを慰めるようにえりみんちゃんはぽんぽんと肩を叩いて
「まあまあ、困ったときに話しかけやすいとかも言われてたじゃない。話しかけてきてくれるのもいいって。要するに気が利くってことよ」
「…そうかなぁ」
叩かれてる肩と反対にすこしぷいっと顔を背ける照葉ちゃんの頬はちょっと赤い。
「よかったよかった」
「単純ですねぇ」
わたしと七々ちゃんはのんびりそんなことを話す。
「そこ!余計なこと言わない!」
でも照葉ちゃんは顔の向きを戻して、ちょっと笑いながら
「確かに悪口とかじゃなかったし、そんな気にすることじゃなかったかも…って」
不意に照葉ちゃんは後ろに引っ張られてるようで、歩くのをやめて後ろを振り向く。照葉ちゃんの制服の裾を引っ張ってたのは寧世ちゃん。
「んーどうした、ねいせ」
「てる。私、不満ある」
「なんで?」
「そもそも二人に比べて、私、コメント少ない」
照葉ちゃんもえりみんちゃんもすっと、あー…とばかりに目を伏せる。
「なんか寧世ちゃんだけ、みんなに聞いてもおんなじことばっかりで…」
「詩絵さん、それフォローのつもりでしょうが、逆効果ですよ」
抱えた七々ちゃんに言われて、わたしはなんで!?と言ったけど、落ち込む寧世ちゃんの顔を見て納得。
「ご、ごめんね、寧世ちゃん…」
「いい。それにもう一つある。私、ミステリアスとかじゃ、ない!」
それはちょっと無理があるんじゃ…と思ってももうわたしは口をつぐむ。
「えー、いいじゃん。ミステリアス・ガールってなんかかっこいいし、褒め言葉じゃん」
前を歩く照葉ちゃんがそう言うけど、後ろの寧世ちゃんはまだまだ不満気な感じ。
「あ、詩絵さん。わたしを寧世さんの耳元に持ってってくれます?」
「うん、いいけどなんで?」
「いいからいいから」
言われた通りにわたしが七々ちゃんを持ち上げて寧世ちゃんの隣に進むと、寧世ちゃんの前の照葉ちゃんがこう言った。
「まああたしもねいせが何考えてるか、わかんないときもあるしさー」
とこのタイミングで七々ちゃんが寧世ちゃんに耳打ち。
「何考えてるかわからないって距離があるってことですよね、寧世さん?」
あ、煽ってるなぁ、七々ちゃん…。
言われた寧世ちゃんはびくっとなってから、照葉ちゃんの裾を思いっきり引っ張る。
「どしたよ、いきなり」
驚いて振り返った照葉ちゃんに、そしてわたしたちに寧世ちゃんは宣言する。
「私、高校デビューする!」
今更、な気がする。
※※※
駅から少し離れた通りにある某ファストフード店は、一階は注文カウンターだけで、それから上の二階から四階が食事席になっている。少ないスペースで人をたくさんいれようって意味で大成功。
寧世ちゃんの言う高校デビューのことで話し合おうとわたしたちはそこに入店。机の上に置いた七々ちゃんと話してると階段を上がってえりみんちゃんがやってきた。
「照葉ちゃんたちは?」
「二人ともまだ並んでるわ。丁度混んできたみたいね」
えりみんちゃんはそう言って席につく。
「それで、なにかアイディアでた?」
ポテトを一つ頬張ってえりみんちゃんが言う。
「一応七々ちゃんが言うには、実は大食いっていうのはどうか、だって」
「ミステリアス、神秘的というように神と入っているのですから聖の要素が強いわけです。ならその真逆の俗、わかりやすいところで欲、それで食欲イメージです」
わたしの話を継いで七々ちゃんが付け足す。んー、とえりみんちゃんが考え込んで、ドリンクを手に取り、ストローでちょっと飲んでから
「それって、つまり見た目に反してたくさん食べる、って話でしょ」
「ですね」
「だから、あの小さい体のどこにあれだけの量が入るんだって話になると?」
「胃の中、ブラックホール」
「謎ですね」
「「あっ」」
わたしと七々ちゃんははもって声をあげた。
「そう、結局謎って話に落ちついちゃうんじゃない?」
「ダメですか。いいと思ったんですけどねぇ」
トレイの上のハンバーガーの包みをむいて、ひとくちかぶりつく。おいしい。
「それよりも、らしさみたいのをアピールするのがいいんじゃないかしら」
「はひーう?」
「口の中なくしてから喋りなさいよ。ともかく寧世がどういう人かが伝わってないからミステリアスって言われるんだから」
わたしは口の中のものを飲み込んでストローに口をつける。代わりに答えたのは七々ちゃん。
「SNSとかのマイページで載せてるやつですか。昔の学校とか趣味とか好きなアーティストとか」
「そうそう」
「わたしがだいっ嫌いなやつですね。虫唾が走るレベルで」
「台無しよ!」
「まあ他人がやるぶんにはどうぞご自由に」
「今更言ったって遅い!」
ドリンクを置き、わたしは紙ナプキンを一枚とってメモ代わりに机の上に置く。それからボールペンを取り出してぴっと一本線を引く。
「とりあえず、なにか考えてみよう。こうやって寧世ちゃんのアピールポイントを書きだしていけば…」
メモの上でとんとんとポールペンの先を叩いて、黒い点がいくつかできてから
「えっと、ミステリアスっと」
「だからそれを解消するんでしょ!」
「それならえりみんさんが教えてくださいよ。わたしたち二人とも転校生ですよ?寧世さんのアピールポイントなんてそうそう出せるもんじゃないのです」
「むむ…それもそうね…」
わたしからボールペンを借りメモの向きも自分の方に直して、えりみんちゃんもボールペンの先でとんとんとメモを叩く。
「ふ、不思議ちゃん…」
「同じ意味だよ、それ!」
えりみんちゃんはボールペンを放って、
「わ、わたしより照葉に聞いた方がいいって…幼馴染なんだし」
「あれ、そうなの?てっきり三人ともそうだとばかり」
「ううん、わたしは高校からよ」
「じゃあわたしたちと大差ないですね」
「…まあね」
「このメンバーじゃ話進まないね…」
「そもそもの話ですけど、仮にアピールポイントがあったとしてもそれを伝える機会がないですよ。本人は隠してるつもりはなくても、普通にしてて伝わってないからミステリアスって評価なんですから」
「確かにその通りね。入学当初とかなら自己紹介のチャンスもあったけど…」
「じゃあポスターでも張ってみる?」
「選挙じゃないんだから…」
「だとするならもっと見た目とかから変えていくべきなんです。見た目の変化は印象の変化。ついでにそこから話し掛けられることも多くなります」
食事もなにいらないからと一人だけ何も頼んでない七々ちゃんがスピーカー越しに提案してくる。わたしはそれに答えて、
「するとやっぱり髪かなぁ、制服はどうしようもないし」
「そうでもないわ。カーディガンは自由だし、着崩すとか、スカートの丈を変えるとか」
えりみんちゃんは自分のカーディガンを出してみせてから、周りの女子高校生に目を向ける。なるほど、それはそうか。ということで七々ちゃんが言う。
「じゃあ、スカートをくるぶしまで伸ばしましょう」
「それはなんか不良っぽい。ていうか危ないでしょ、足にひっかかったり、エスカレータとか危ないわ。校則にもひっかかりそう」
長いとダメ…でも今以上に短くするのも…そうだ!
「スカートを、はかない!」
「それはただの痴女ですね」
「校則以前の問題ね」
なにも二人してツッコまなくても。
「ダメかぁー」
ハンバーガーをもったまま、わたしは机の上にぐでーと腕を伸ばす。
「むしろなんでいけると思ったのよ……カーディガンは印象薄いし、やっぱり髪かしらね。髪型とか髪色を変えるとか」
「染めるのは手間もお金もかかるし、戻すのも面倒ですね。それよりも髪型変える方が簡単でその割には効果も大きいんじゃないですか?髪型にはやっぱりイメージってありますし。となるとミステリアスの反対、活発系でいくなら…」
と言って七々ちゃんは急に喋らなくなって、代わりにえりみんちゃんがふいっとわたしの方を見た。その視線で気付いたわたしは、自分の頭の後ろの尾っぽを奪われまいと隠す。
「ってだめだめ!ポニテはだめ!わたしのアイデンティティ!」
「いやアイデンティティってほどのことじゃないでしょ。運動部、結構やってるわよ」
「ほらツインテ、ツインテなら誰ともかぶらないよ!」
「それはちょっと、子供っぽいわね。寧世も嫌がるんじゃない?」
えりみんちゃんは笑ってそう言うけど待って、わたし転校してくる前はツインテだったんだけど。子供っぽかったの、あれ。
「どうしたものかしらね…」
恥ずかしくて顔が火照ってるわたしに気付かないで、ストローをくわえてえりみんちゃんが呟いていると、その後ろからやっと照葉ちゃんと寧世ちゃんがやって来た。
「ごっめーん、遅くなったー」
後ろから声がしてえりみんちゃんが振り返る。
「なにかあったの?」
椅子に座りながら照葉ちゃんがそれに答える。
「実はさ、あたしたちの前の人がトレイ受け取った途端にひっくりかえしちゃってねぇー」
「照葉の前の人って、わたしの後ろの人だから…ああ、あの男の人」
寧世ちゃんは照葉ちゃんの向かいで、わたしの隣に座る。
「詩絵、顔真っ赤。どうしたの」
「なんでもないよ、うん、なんでも。そうだ、ね、寧世ちゃんツインテにしてみない?」
「何故そんな話に」
結局寧世ちゃんは髪に触れさせてくれなかった。どうして…
「やっぱりわたしも二人を待ってから上がった方がよかったかしら」
「いやいや、あれはえりみんを巻き込まないために先に上がらせたんだから」
「ふーん。ってわざと!?」
「もう受けとってるえりみん巻き込むのもあれだし、逆に時間かかりそうだったし」
「どういう意味よ、それ」
えりみんちゃんに問い詰められても、睨まれても、照葉ちゃんは笑ってポテトを頬張る。
「待ってください。ということは二人は前の人がこぼすというのがわかってたんですか?」
机の辺の端、つまりお誕生日席みたいに置かれた七々ちゃんが言う。
「予知みたいだけど、ねいせ曰くそうじゃないんだってさ」
照葉に続きを振られる形で寧世ちゃんが話を継ぐ。
「その人のオーラ見て、すごい慌ててるのわかったから、多分こぼしたりするんじゃないかって」
「全視ってそういうのも見えるんだ」
照葉ちゃんたちにとってはもう驚くことじゃないのかも知れないけど、わたしと七々ちゃんは素直に感心。
「わかってたんだから、こぼさないようにすることだってできたでしょ。なんで止めなかったのよ」
「ちゃんと阻止しようとしたよ。前の人に落ち着いてもらえるように、あたしたち二人は真後ろで超スローに会話してた!」
「逆にいらつく!」
周りのBGMで気分とかが変わったりはするけど、それはさすがに。
「もしかして遅くなったのって…」
「前の人が片付けた後もスローで動いてたからかな」
「こぼしたとか全然関係ないじゃない!」
「ふっふっふ、さっきの会話でわたし思いつきましたよ…今回はバカ二人のせいでうまくいかなかったようですが…」
「バカ二人ってなんだおい」
「オーラを見て人の心理状態を見る。それを元にさっと気配りの出来るいい女になればいいのです。困っている人にすっと手を差し伸べるのです。ま、要するに照葉さんと同じ感じになるんですかね」
七々ちゃんが最後にそう付け足すとストローでイチゴシェイクを飲んでいた寧世ちゃんが急にむせ始めた。
「だ、大丈夫?」
何回か咳してから寧世ちゃんはこくこくと頷く。
「いいじゃないそれ。プラスのイメージ持ってもらえそう」
「やるじゃん、七々!」
そう言って照葉ちゃんは腕をぶんぶん振り回して、すると七々ちゃんのスピーカーがばんばんと音を出す。
「あ、ごめんごめん。今右手が見えなくなってるんだった」
「いまだに慣れないなあ、それだけは」
「ていうか痛いから止めてください。痛っ」
止めろと言われてからまた一回叩く照葉ちゃん。というか、スピーカー叩かれてるだけなのに痛いんだ…?
「それじゃあ早速明日から、わたしたちでフォローしつつ、寧世のイメージアップ作戦、決行しましょう!」
飲みきったドリンクをトレイに置いてえりみんちゃんが宣言し、わたしたちも
「「「おー!」」」」
と掛け声をあげたのを制したのがまさかの本人、寧世ちゃん。
「待って。私、ひとりでやってみる」
「む、無謀だ、ねいせ!」
「そうですよ、バカ二人でダメなんですから一人じゃ絶対不可能です」
「そうそう…って、なんかあたしたちへの当たり強くない!?」
照葉ちゃんがノリツッコミをしているのにも臆せず、寧世ちゃんは立ち上がり
「ますは、自分でどこまでできるのか、やってみたい。それに、結局は自分次第、だから」
おおー、自然にわたしは拍手していて、えりみんちゃんも
「よく言ったわ寧世!さっそく、明日の朝から…」
「朝、弱いから、無理」
「じゃあ、一限の授業からとか…」
「いきなり、大勢の前は、ちょっと」
「…じゃあ昼やす」
「昼休み、私の自由時間。何者にも、侵させない」
「やっぱりやる気ないでしょ、あんた!」
えりみんちゃん声大きい!みんな見てる!
結局寧世ちゃんは放課後から本気出すということになってその日はお店を出た。ちなみに一階の注文カウンターを通ったときに、店員さんが照葉ちゃんを見て、ひっと声を出していたから聞いてみると
「ああ、ほら今あたし右手見えなくなってんじゃん?そのままトレイ受け取ろうとしたから。それから店員さん安心させてちゃんと受け取るまでそりゃあ時間かかったよ」
結局安心させられてないし、だからあんなに二階に戻ってくるまで時間かかったんだ…
※※※
それから二日後。つまり寧世ちゃんがやる気をだして放課後飛び出していった、その次の日。朝、いつもの待ち合わせ場所に行くと寧世ちゃんだけが来ていなかった。
「寧世ちゃん、今日先に行ってるの?」
「そう、今朝メールが来てさ。びっくりだよ」
「前、あれだけ朝は苦手って言ってたのにね」
学校に向かって歩き出して聞いてみると、照葉ちゃん曰くそういうことらしい。結局昨日一人学校に残った寧世ちゃんがあの後どうしたのかはわからずじまいだし…
「やっぱり昨日はねいせに黙ってでも残っとくべきだったかなぁ」
照葉ちゃんがそう口にするとわたしが持ってるスピーカーから七々ちゃんが
「そうですねぇ。もしかしたら、ほら男子の好感度上げとかなら身売りとかかもしれませんねぇ」
すると照葉ちゃんは急に立ち止まった。
「つまり
『明日も朝一で、ちゃんと一人で来るんだぞ、わかってんな?』
『わかってる、ちゃんと、来るから』
ってことか!」
「何、今のイメージ」
「ねいせぇー!」
今度は叫びながら走っていってしまった。
「ちょっと、七々ちゃん、わざと焚き付けたでしょ!」
「その方が面白いですよ」
「いいから、照葉を追うわよ!」
すぐにえりみんちゃんは照葉ちゃんを追って走り始めて、それに続いてわたしも…
「スピーカーが重くてはやく走れない…」
「がんばってくださーい」
「そう思うならもっと軽いのにして!」
ひいひい言いながら校門くぐって昇降口。靴を履き替えて廊下に出るとどうしてか、まだ照葉ちゃんたちはそこにいた。
「あれ、なんでまだここに、いるの…」
「おおい、大丈夫か詩絵」
肩で息するわたしはとりあえず置いといてもらって、話を聞く。
「照葉ったら、先に体育館裏とか部室棟、あと屋上の方まで見に行ってたんですって」
「ほら、やっぱり、そういうイメージあるじゃん?」
「だからホントに何のイメージよ」
二人の会話を聞きながら、わたしは呼吸を整えて
「あと、見てないのは?」
「あとは…教室だけだ!よし急ごう!」
またすぐに駆けていく照葉ちゃん。生徒指導の先生とか見つかんなきゃいいけど…
「こら雉日!廊下は走るんじゃない!」
言わんこっちゃなかった。
「緊急事態なんですよ先生!親友のピンチです!」
結局言い訳も中途半端に振り切っちゃったけど。
「詩絵。七々持つの変わろっか?」
えりみんちゃんは見なかったことにしたみたい。
「あと教室までだから大丈夫だよ…」
というわけですぐに照葉ちゃんを追って教室へ。教室の扉が見えてくると、そこでは照葉ちゃんが扉を開けて中に飛び込んでいくのが見えた。
「大丈夫か、ねいせ!」
という叫びに続いてわたしたちも教室に入った。けど…
「なにこの人!」
教室の中でひしめく、人、人、人。普段の教室とは比べ物にならないほどの人が中に押し込められていて、なんだかよくわからないけど大変だ!
「ちょ、どうなってるのよこれ!」
川のように一方向の流れがあるわけでもなくて、えりみんちゃんもその場であっちから押されこっちから押されを繰り返してる。ちなみにわたしは
「ちょっと、わたしを盾にするのやめてくださいよ。へこんだりしそうですし」
「毎日運んでるんだから文句言わないの!」
でも一体なんでこんなことに。
すると急に教室の前の扉が勢いよく開く音が。ここからじゃ何が起きてるか見えないけど、周りからは歓声が上がり始めた。
『す、すげぇ…人の海が割れていきやがる…』
『ああ、これこそまさに…』
『ネーゼ様のお力だ!』
「なんでモーゼみたいになってんの!」
照葉ちゃんのツッコミが聞こえたと思ったら、急に腕をぐいっと掴まれて教室の前の方につれてかれた。すると人が少なく開けたスペースに出る。ああ、これがさっきの人の海が割けたところか。
「大丈夫か、詩絵、七々」
わたしたちを引っ張り出してくれたのは照葉ちゃん。ここに来て冷静になってみると、後ろの方ではえりみんちゃんが交通整理というか、他のクラスの人を外に追い出してるらしい。流石、副委員長。
「それで、なにがなにやらさっぱりなんだけど…」
「あたしもそれを今から聞くところ。で、なんだってのさ、ねいせ!」
教室の壇上に上がっている寧世ちゃん。何故か周りに男女数人が付いて回ってるけど。寧世ちゃんは腕組をして堂々とした様子で話し始める。
「てる。私、良い事をしようと思った。そして、占い始めた」
「占いって…オーラを見てってやつ?」
照葉ちゃんが尋ねると寧世ちゃんじゃなくて、代わりに周りに立っていた男子生徒が答えた。
「そうです。ネーゼ様に占ってもらい、さらにはアドバイスまでいただいた俺は見事部活のレギュラー争いに勝利し、念願の彼女もできました」
「ただ自慢したいだけのリア充じゃないですか」
「七々ちゃん、しー!」
「そしてこの場に集まった者達はみな、ネーゼ様に救われたのです。こうして集った我々は、ネーゼ様を崇め奉る事を決めたのです!」
男子生徒がしめて、周りから喝采が湧く。でもちょっと待ってね。
意味がわからない。
「そろそろ、授業。戻った方がいい」
「はっ、おおせのままに!諸君、撤収だ!」
寧世ちゃんの言葉に怖いくらい従順に従って付き人達は去っていき、続いて教室から人が減って、ようやくいつもの朝休みの風景が戻ってくる。
「ほんとになんだったのよ、今の」
交通整理を終えたえりみんちゃんが戻って来た。わたしたち四人は寧世ちゃんを囲む。
「ねいせ、お前変なことされてない…よな?」
「寧世さん、変な薬とか嗅がせてませんよね?」
「二人目、台詞がおかしい」
みんなに詰め寄られても寧世ちゃんは動じない。代わりにこう言ってのけた。
「校内イメージアップ、成功」
「いやいやいや、色々とおかしいってこれは!」
照葉ちゃんが色々言ってるけど、これって…。
「うん、確かに寧世ちゃんの印象はよくなったと思うけど…」
わたしの言葉に寧世ちゃんはうんうんと頷く。
「でも結局、百発百中の占いをする不思議な、それか神秘的な人ってイメージを強くしただけなんじゃ…」
「あ」
ちなみにしばらくこのネーゼ教は校内を席巻し、ある程度おさまった後でも熱狂的信者はなお存在し続けたという…。
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