第4話

少し長めの前髪から覗くあの優しい瞳は五年前と変わらず、柔らかい光を持ち、白い肌は薄赤い空に影響されてかほんのり赤みを帯びていた。


「やっぱりゆらちゃんだ。」


嬉しそうに目を細め笑う。


「今日、来てたよね?俺すぐわかったよ、ゆ「なんで」え?」

「なんで今来たの?今まで、どこに…なんでなんにも言わないで、五年も、私、ずっと待ってたのに、なんで、なんで…」


ほんとは嬉しいくせに。嬉しいくせに口から出てくるのは相手を困らせる言葉ばかり。


待ってて、なんて言われてないのに


「…ごめん」


何に対してのごめんなのか、謝る前に説明してくれとか、黒い黒い思いが頭の中を支配しようとしている。


「急にいなくなって、ごめん。五年も待たせてごめん。急に帰ってきて、ごめん。」


彼が1歩こちら側に来た気配がした。私はなぜかこぼれそうになる涙を必死にこぼれまいとしようと下を向いていた。


「五年前のあの日の夜、親から急に大阪に引っ越すって言われて、あん時俺携帯も無かったし、由良の住所とかも知らなかったし、誰にも言えないままこの町をでて、でも、俺は、その、由良に、会いたくて、そんで、親に頼み込んで高校はこっちにしてもらって…」


はっとして顔を上げた。

私に会うために…?


「でも高校同じだったのはほんとに偶然で!今朝ゆらちゃん見た時、夢かと思って!」


彼は興奮気味に笑った。


「…ゆらちゃんに会いたかった。ずっと会いたかった。」


1歩1歩踏みしめるように近づいてくる。


「ゆらちゃんが、好きだから」


そう言って、照れたように笑った。


「っ…私だって玲月に会いたかったよ!五年間ずっと!でも五年前なんにも言わないでどっか行くし、音信不通だし、諦めなきゃって、思ってたのに!もうちょっとで、こんな想い忘れれそうだったのに!…」


嗚咽で言葉がつっかえりながら、言葉をぶつけるように、言う。


「今、私の目の前で、そんなこと言われたら、諦められな…い…」


突然目の前が真っ白になった。その白が玲月の制服のカッターシャツだと気づくのに数秒かかった。ドクドクと心臓の音が聞こえ、体温が伝わってくる。


抱きしめられてる…?


そう自覚した瞬間全身が熱くなった。変な汗が出ている気がした。


「ちょ、玲月…「諦めないでよ。」えっ…」


「諦めないでよ、忘れないでよ、俺のこと。」


慌てて離れようとした私を逃がさないとばかりにぎゅうっと抱きしめてくる。

頭の上から少し低めの声が聞こえる。


「何度でも言うよ、俺は、池上由良が好きです。五年前からずっと好きです。大好きです。」


耳元で囁くように、でも刻みつけるように、伝わってくる、声。

恐る恐る玲月の背中に精一杯腕を回した。

こんなに、大きかったっけ。

五年の歳月が、じんわり伝わった気がした。


「…返事」

「えっ」

「返事、今欲しい」


ゆるりと体が離れ、熱が引いていく。

黒い瞳は私だけを見つめていた。


「…私も好きです。神山玲月が、五年前からずっと好きです。だ、大好き…です。」


最後の方はやっぱり恥ずかしくてしぼんでしまった。

聞こえたかな…


「っ…ちょっと、やばい。なんか、うん、やばい」


口に手を当て、玲月は目をそらした。

でもすぐに向き直って


「俺と付き合ってくれますか。」


「…よろ、こんで。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青夏 由仁 @uni_umi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る