第3話

一年生に転入生が来たらしい、

そんな噂を何処からか聞いた。


「転入生の噂、聞いた?あれ、ほんとらしいよ。」

「え、そうなの?」


ポニーテールをゆらゆら揺らして来たのは小さい頃からの幼馴染みのみっちゃん。


「見に行っちゃう〜?」


にやにや笑いながら体をすり寄せてくる。体をというか、胸を。


「みっちゃんが見たいんでしょ。」


私は少し呆れながらその体を押し返した。


「い〜じゃん〜高校になってからの転入生なんてそうそういないし〜」


それに男の子らしいよ?とまたにやにや顔で言った。全く、女子高生というのは…とかいう私も女子高生なのだが、一応。


「しょうがないなぁ。」

「やった!愛してるよ〜〜」

「はいはい。」


私はみっちゃんに引っ張られながら一年生の教室へと向かう階段に足をかけた。





珍しい転入生というのもあって一年生のフロアは生徒でごった返していた。ここだけに2、3℃気温が高いんじゃないかと思うほど、暑い。


「あの子だ!」

みっちゃんが指をさす。

「みっちゃん!声大きいよ!あと、人にゆびさしちゃ…だ、め…」


思わずその指の先を追ってしまった。彼を、

長身の細い体がゆらりと揺れ、振り向くと同じく黒い髪がさらりと揺れた。


嘘、でしょ


「…れ、い」


時間が止まった気がした。

日に焼けたことのないような白い肌、さらさらと風に揺れる黒い髪、大きく開かれた瞳はあの頃のように優しい光を宿していた。


でも、そんなことって、そんなことあるのか?

五年も前に何の音沙汰も無く儚く消えてしまったのに?

彼はただ似ているだけじゃないか?


色んな思いが私の脳内を駆け巡る。どくどくと血液が流れる音が全身に響く。指先が小刻みに震えている。


「かっこいい〜あっ、ねぇこっち向いたよ!って由良!?どこいくの!?」


逃げた。自分でもなんで逃げたか分からないけど、足が勝手に動いていた。

無我夢中で走っていたら、いつの間にかあの喧騒は消え、クラスについていた。ふらふらと自分の席につく。


「由良!」

「みっちゃん…」


走ってきたのか、みっちゃんの息が上がっていた。


「いきなり走り出すからどこいったかと思ったよ〜どうしたの急に〜」

「ご、ごめん。ちょっと用事を思い出して…」


嘘をついた。

みっちゃんは信じてくれたようで、内心ホッとする。


そんなこんなでホームルームが始まり、1日が流れた。今日は授業に集中できなかった。あの吸い込まれるような瞳がずっと私の頭の中で視線を交じあわせていた。


放課後


「由良ぁ〜〜オフ潰れた〜〜」

「どんまい笑じゃあ帰ってるね」

「ごめんね〜気をつけて帰ってね!明日は一緒に帰ろ!」


そう言ってみっちゃんは白のエナメルバッグを持って体育館に向かった。彼女はバレー部でレギュラーらしく、大会も近いため最近忙しそうだ。

今日は自分もみっちゃんも部活がオフの予定だったからスタバの新作をのみに行こうとしてたのだが、おじゃんになってしまったので、家に帰ることにした。


バスに揺られ30分弱、電車に揺られ1時間弱、降りた地元駅はもう薄暗く、空は夕日の残りのように薄赤く染まっていた。

ここから通っているのは私1人、この時間に降りるのも大体ひとりだ。そのはずだった。


「…ゆらちゃん?」


懐かしい響きだった。


「…れい。」

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