-Ⅱ-
声を掛けてきたのは肩まで伸びた銀色の髪を一つに結んでいる青年で、ゴーグルを掛けているがそれでも笑顔だとわかりやすい表情で補佐席から身を乗り出してアイリア達を興味津々に見ている。
それとは反対に操縦席の黒髪の男は興味無さげにずっと進行方向を見たままで静かに座っていた。
銀髪の青年はゴーグルを額に上げると——とても端正な顔立ちである——人懐っこい笑みを二人に向けた。
「デルフィーンもボロボロだし、困ってるんじゃないかな?」
だが、先程まで空賊と相対していたイルミンとアイリアは警戒の色を見せる。
「——『船』って・・・お前らも空賊か?」
イルミンがただでさえ悪い目つきを更に鋭くして青年に問うた。
青年はそれを物ともせず、そうだよ、とあっけらかんと返し、名を名乗った。
「僕は空賊団『
青年——ルイセルの言葉にイルミンは頷く。
ルイセルは名推理だろと言わんばかりに得意気な顔をした。
「なるほどねー。だから僕も警戒しているってとこかな・・・」
納得したように苦笑すると、ルイセルはうーんと唸った。
「信じてもらえるか解らないけど、僕は君に危害を加えるつもりはないよ。ただ、ちょっと話が聞きたいだけなんだ」
敵意はない、と両腕を広げ、笑顔で降参のポーズをとる。
アイリアは少しだけ迷ったようにイルミンを見たが、イルミンは変わらず警戒の色を解こうとはしなかった。
困ったような表情のルイセルを見かねたのか、テオと紹介された操縦士がため息交じりに言った。
「ルイセル。自分が渡り鳥だと言ってやればいいんじゃないか?」
「ちょ、っと、テオ!それは秘密って言ったじゃないか」
「こいつらは空賊に襲われたんだ。それを教えてやることでしか俺たちを信じることはないだろ」
テオはゴーグルを掛けたままアイリアとイルミンを見た。
ルイセルもテオから目線を二人に変え、苦笑した。
「そういうことで、僕は一応君達の味方なんだけど・・・」
イルミンの疑いの目と目線がかち合い、ルイセルは嘆息した。
「まあ、信じないよね・・・」
「——お前が渡り鳥である証拠を見せろ」
イルミンが低い声でそう言うと、ルイセルはしょうがないな、と呟き、両腕を前に出した。
「僕、タクトは苦手なんだけどね・・・——『
ぼやきながらもルイセルが唱える。
すると、アイリア達のデルフィーンを支えている雲からぴょこぴょこと、二匹の雲の兎が飛び跳ねた。
ルイセルの
雲兎は数回跳ねると、元の雲に戻って消えた。
「ちょっとは、信じてもらえたかな?」
ルイセルは二人を伺うように見て、端正な顔をかしげた。
だが、イルミンはまだ迷っていた。ここでこいつを信用して、またさっきみたいな目をアイリアに合わせるわけにはいかないのだ。
それを感じたのか、アイリアはすっとイルミンの肩に手を置いた。
振り返ったイルミンにアイリアは笑顔を向け、ルイセルに目線を移す。
「ええ。——ルイセルさん、このままではこのデルフィーンも持たないから、お邪魔させてください」
「おい・・・!」
イルミンが声を上げるが、アイリアは真っ直ぐな眼でイルミンを見た。
「イル、ここは信じてみましょう。私もこのまま
長時間使い続ければ、体力を奪われ、意識を失う。
直感ではあるが、アイリアはルイセルが敵ではないと思っていた。
「それにきっと、こんな状態で無力な私たちを捕まえるつもりならもう捕まえているだろうし、殺すつもりならもうしてると思うわ」
「・・・それもそうだな」
イルミンはやっと納得したように言うと、ルイセルを睨んだ。
「遠慮なくお邪魔してやろうじゃねえか」
「うーん・・・嬉しいんだけどちょっと複雑だなぁ」
言葉とは裏腹に柔らかく微笑み、ルイセルは嫌な顔一つせずにそう言った。
「とりあえず、僕らの船に案内してからお話させてもらおうかな。——テオ、行こうか」
そしてテオに声を掛けるルイセルだが、あ、と声を上げ、アイリアとルイセルを振り返った。
「僕がタクトを使えることはテオしか知らないんだ。だから、これは今から会う仲間には内緒で」
口元に人差し指を持っていき、ルイセルは微笑む。
その美しい笑顔に、アイリアは少し顔を赤らめた。
「え、ええ・・・解ったわ」
「お前が変な真似したら言うけどな」
イルミンが間髪入れずにそう言うと、ルイセルは苦笑した。
「そんなことしないよ。——ま、それでいいからついてきてくれる?えっと・・・名前は・・・」
「イルミンだ」
「アイリアよ」
二人が名乗ると、ルイセルは驚いた顔をした。
「——アイリア・・・?」
「え、ええ・・・」
再度の確認にアイリアは戸惑いつつ肯定した。
ルイセルはそうか、と呟き、再び柔和な表情に戻った。
「——失礼したね。じゃあ、行こうか」
その声にテオがデルフィーンを発進させる。
アイリアは後を追うように自分たちのデルフィーンを動かした。
しかし、イルミンは目の前のルイセルの後ろ姿を無言で睨み付けていた。
——先程の一瞬の惑いはなんだったのだろうか。
やはり、気を抜いてはいけないのかもしれない。
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