30-23 : 暁
……。
「ゴーダ卿、
「そんなものはないよ……運命なんぞない」
小さく首を横に振ってから、ゴーダは2人の盟友に笑いかける。
「未来をこじ開けるのは、ただの偶然と……がむしゃらに
初めて剣を交え合ったときと同じように、ゴーダは
「……そうですね。その通りです。やはり、
「…………」
シェルミアとエレンローズが、
そんな2人の姿を見て、一瞬、ゴーダは彼女たちだけでも“巻き戻そう”かとも考えた。幻想の力を借りて、2人を深く傷つく以前の姿に……と。
「「……」」
次に首を横に振るのは、シェルミアとエレンローズの番だった。何への否定の意志なのか、彼女たちは語らない。言うまでもない、と。
「……。……ああ、無粋だったな」
カチンッと
彼女たちがもう一度笑顔になると、白い世界に一陣の風が吹いた。結った金髪と銀の長髪がふわりと
遠く、雪と氷を
足下。自身の影に別の影が重なったのを認めて、ゴーダが天を仰ぐ。
白い世界に取って代わって、その先には天高く抜ける青空と、漂い流れる雲があった。
「みんな……どうか怖がらないでやってくれ」
ゴーダを囲んで立つ仲間たちに向けて、彼は言う。
「ああ見えて……あいつらは言葉に傷つき
白い地平に影を落とすのは、天使のような美しい純白の羽。そして漆黒の
105騎の黒竜たちが音もなく舞い降りると、ベルクトが首を伸ばして主の身体に鼻先を寄せた。ゴーダが
ゴーダと触れ合うベルクトの後ろで、
「ふふっ、素直なところが
ローマリアがその内の一体へ近づいて、その硬い額に手を
「昔ゴーダを探し歩いて、霧ん中で初めて対面したときは腰を抜かしたもんじゃい。のう?」
ガランが
「“
「…………」
恐らく「竜」の成体に直接触れた最初の人間として、シェルミアとエレンローズはそのものたちの想いを確かに感じ取る。
「触れ合えば……言葉を交わせば……恐れるものなど、何もない……」
***
「「
金の玉座のリーム。銀の玉座のフリィカ。“
真っ白で何もなく、物寂しかった“創造の地平”には、今は幾分かの騒がしさがある。
“魔剣のゴーダ”。
“三つ瞳の魔女ローマリア”。
“火の粉のガラン”。
“大回廊の4人の侍女”。
“明星のシェルミア”。
“右座の剣エレンローズ”。
“古き東の主ベルクト”。
そして黒竜たち。
吹き抜ける柔らかな風と、青い空。白い雲。
「幻想は、形を持ちつつある。次の願いで、世界は明けよう」
「
“
時間の感覚もない白の世界で言葉を交わす内、ゴーダたち一行は2人の少女へも親密なものを感じ始めてきていた。
だからこそ分かる。
彼女たちとの、別れが近いと。
「“魔剣のゴーダ”よ、これが最後の問いとなる」
「
金の少女と銀の少女は終始無表情で、名残惜しさのようなものは見て取れない。
が。
「「その前に……手を取っておくれ」」
少女たちがそれまで突いていた頬杖を下ろし、その手をそれぞれ伸ばしてゴーダへ握手を求める仕草があれば、全て察せるというものだった。
「……」
ゴーダが1人、
それは片膝で
目線を少女たちと同じ高さにやり、ただ親しみを込めて2人の幼い手を自身の大きな両手でそれぞれ握る。
「まこと、良き騎士よな」
「リザリアへ伝えておくれ……
「お伝えします。必ず」
ゴーダの言葉に満足して1つ
そして、最後の問いが、投げかけられる。
……。
「「
……。
……。
……。
答えは、1つ。
……。
……。
……。
「私は――“何も望みません”」
迷いなく、真っ
「ただ、“続き”を。失い傷つき、それでも
言葉とともに彼の腰元から
細い鎖がシャリンと鳴れば、背後には主の背に向かって片膝を突き
全ては、あるがままに。
「「
少女たちとの握手を解くと、暗黒騎士は立ち上がり、双座に背を向けた。
ゴーダが懐中時計を手に取り、風防を開ける。
「それでは、ゆきます――もうとっくに、帰らなければならない時間ですので」
カチ、カチ……と、懐中時計の秒針が動き始める。それが刻む音に合わせて、ゴーダが双座を後にする。
幻想の世界が閉じてゆき、
「皆、達者に生きよ。宵と明け……我らの
「
金の少女リームと銀の少女フリィカの見送りの言葉を、最後に聞いて。
「――承知、しました」
ゴーダは確かにそう応え、パチンと懐中時計の風防を閉じた。
……。
……。
……。
その瞬間。
遠い山脈の
……。
……。
……。
無言で抜かれるは、銘刀“
その刀身に施されるは、魔女の口づけ。
誰もが何も語らないまま、
「――……“魔剣、八式”……」
……。
「……“奥義”……」
……。
「――“:
……。
……。
……。
“
『……これでよい』
『
“創造の地平”に残った2人の少女の、穏やかな声が
『『――再び、
……。
……。
……。
「おやすみ……」
……。
……。
……。
「――さよなら」
……。
……。
……。
……。
……。
……。
――第2次東方戦役及び、人魔大戦……。
……。
……。
……。
――……ここに、終結。
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