30-14 : 終焉の呼び声
「■■――!!」
はっとして、シェルミアはビクリと全身を
「…………?」
横に視線を感じて彼女がそちらを向くと、間近にエレンローズがいた。
守護騎士は焦った様子の主君を見つめて、何事かと不思議そうな目を向ける。
「エレン……私は……。……??」
立ち
ますますエレンローズは訳が分からず首を
「……。いえ、大丈夫です。何でもありません。“こんな状況”ですから、目を回していたようです」
なるほど無理もないと、エレンローズが
“バサリッ……バサリッ”。
“
2人が立っているのは――“
……。
――逃ガ、サン。
……。
■■■――ガランの陽動が“
……。
――繰リ、返ス。何度デモ。
……。
■■■■――作戦の立案も、示し合わせも不要。各々がただ、自らにできることを果たすのみ。
……。
――全テ、戻シタ。
……。
■■――彼ら彼女らの目的は、その始まりからたった1つ。
……。
――黒イ騎士ダケ、喰ッタママ。
……。
■――“
……。
――同ジ時ダケ、繰リ返ス。
……。
■■■――“
……。
――“運命剣”……欲シイ、ソノチカラ。
……。
「■■――はあぁぁぁぁぁっ!」
……。
――モウ、黒イ騎士ハ、来ナイ。
……。
■――“
……。
――塗リ潰ス……
……。
……。
……。
“
いや、永きに
“
シェルミアが“運命剣リーム”を振るった、その直前の時系列へ。
彼女の手で“次元の海”が開かれる瞬間へ。
“
全てを、その
過去、現在、未来……この世に、純然たる
***
……。
……。
……。
――ベシャリッ。
「――……」
何かに
「……ぅ……」
ドロドロの液体に半身が沈みかけていることに気付いて身を起こしたのは、それから間もなくのことだった。
「……?! 何が……どうなった……?」
よろりと立ち上がりながら、ゴーダは意識の混濁に頭を抱える。
状況の確認を試みる。
周囲には消えかけの
足下は弾力のある泥か何か……おぼつかず、ズルリとぬめり気のある粘膜質で覆われている。それに足を取られて反射的に腕を伸ばすと、手が触れた先の壁面も同様の粘膜で構成されていた。
先ほど意識を失ったまま溺れかけたドロドロの液体は、不快な生暖かさと生臭さを放つ。
「どこだ……ここは……?」
思い出そうとしてみるが、違和感があるだけで何も理解できなかった。
記憶が迷走している。
外から記憶をぶつ切りにされて、前後を入れ替えた上に継ぎ
「“
……。
……“
……シェルミアと“運命剣”を汚染しきる寸前で、彼女を救出した邪魔者、“魔剣のゴーダ”をあの場面から排除する
……巻き戻った“現在”から見れば“未来”である、ゴーダの状況だけを“過去”へと持ち込んだが故の、彼のその混乱であった。
……。
“
それが何なのかは“思い出せない”が、それをされてしまったが最後、この世の全存在は二度と“
「出口を……見つけなければ……」
ゴーダは“
そこは“宵の国”も、“明けの国”もない世界。
人間も、魔族も、何者もいない世界。
争いもなく、しかし平穏もない世界。
死に絶えたのですらなく、初めから生命など存在しない世界。
変化を止めた世界。
過去と現在の区別がつかなくなった世界。
未来の消えた世界。
そこに世界があると定義することすらできない世界。
名前さえも、つけることのできない何か。
時間の概念まで消え果てて、
“原初の闇”がもたらさんとする、これが純然たる
“
「……」
気付かぬうちに。
ゴーダの足が、止まっていた。
「……っ……」
……無意味。
どんなに傷つこうが。どれほど
最後にやってくるのが、こんなものであるならば――。
――……何もしないのと……同じではないか……。
それまで息巻いていた熱量を押し流すほどの、虚無感。心の内に、思わずそんな言葉が
……。
たとえ損なわれ、取り返しのつかない形になってしまったとしても。
そこには確かに「思い出」が――自分たちの生きた
それだけはこの手に取り戻さなければと、その一心で“忘名の愚者”を打ち破った。
……。
しかし……その先にやってくるのが、こんな何もない
“
足下がふらつき、何も考えられなくなっていく。
純粋悪が背中にずしりとのし掛かり、耳を
“
……。
……。
……。
そして、崩れかけた彼の心を、握り潰すように。
……。
……。
……。
「……ゴー……ダ……さ、ま……」
この世の終わりをその目に見て、くずおれる寸前で踏み
今にも消え入りそうな、聞こえないほど小さな、
「ゴー、ダ……様……」
そんな声が繰り返し、暗黒騎士の名を呼んでいた。
そこにゴーダがいると分かって、呼びかけているのではない。
ずっと、ずっと……ずっと前から、その声はゴーダの名を呼び続けていたのだ。
何百回……何千回……何万回と。
消えそうになりながら。崩れそうになりながら。それでもただ一心に、彼の名を繰り返し呼び続けていたのだ。
……。
たった1人の、主の名を。
……。
「――っ!」
“
そして彼の方も、その名を呼ぶ。
……。
……。
……。
「――ベルクトっ!!」
絶望の中で……その、漆黒の騎士の名を。
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