30-12 : 「未来」に伸びる――
――……。
“現在”へと収束する以前の、無数に分岐した像が見える。
この世界が取り得る未来の形――可能性の万華鏡。それと、本来は並行世界にしか存在しない可能性まで映し出して立体的に広がった“次元の海”を、シェルミアの意識がたゆたっていく。
“未来”という未知の世界が広がる、ここがその出発点。
“
シェルミアが未来を選択し、それが現在という形になった瞬間、あらゆる事象は“
そうなってしまえば、また手が出せなくなってしまう。あの絶対悪の都合のいい結果に書き換えられるか、跡形もなく破棄されてしまう。
そうさせない
――見つけるのです。届いてみせるのです。
確実に。完全に。絶対に。“
この選択が収束した瞬間、その事実を
――あれは……。
シェルミアの意識に、“次元の海”の
暗い夜空に一点だけ光り輝く、明星のような光。
そこにどんな未来の像が映し出されているのかを確かめるよりも先に、シェルミアは確信を得る。
――間違いない。あれが、私たちの求めているもの。“
シェルミアが念じると、彼女の意識は光の速さでその地点へと至る。
――届く。もうすぐ……!
シェルミアの指先が、開かれた未来に触れる――。
その、瞬間。
――……!?
彼女の意識が、停止した。
未来の光は、既に手のひらの中にある。後はこれを握り締めさえすれば、この光は“
けれど、その最後の最後の。ほんのわずかな一握りが、シェルミアにはどうしても届かなかった。
……。
……影。
視線すら動かせない停止状態の最中、シェルミアは自身の背後にその気配を感じる。
――……馬鹿な……!
――“
戦慄を覚えた。“原初の闇”に、まさか“運命剣”にまで干渉する力があるとは、想像することもできないでいた。
――いや……“違う”……!
シェルミアの意識に、ぞっと
確信めいた、もっと恐ろしい臆測が意識の内を駆け巡る。
――『
それは“
――『余の権能を、模倣するなど……』
そしてシェルミアが、その答えを
――“人造呪剣ゲイル”……! “運命剣まで、模倣するつもりか”……!?
そんなことは、絶対に……絶対に、あってはならないこと。
既に“
過去、現在、そして未来――全てが支配されてしまう。
そんなことになれば……あの“
――でも、どうやって……?! どうやって、“運命剣”にまで迫って……――。
そこまで思いを巡らせて、ようやくシェルミアはその事実に気付く。
――……あ、あ……。
彼女のことをじっと見ていると感じていた
――わた、しを……取り、込ん、で……っ。
“
――そんな……ああ、そんな……!
手に力を
光は、目の前にあるのに。こんなに、もどかしいほど目の前に。
この世の何ものとも
「絶望」の2文字が、頭を
……。
……。
……。
ぐっ。と。
知っている手の感触があった。
……。
……。
……。
そして選択は放棄され、未収束のまま、“次元の海”が閉じる。
……――。
「――シェルミア!」
ゴーダが彼女の名を呼び、
“
魔の瞳の中に取り込まれ、“
「……うっ……! ごほっ! おぇ……っ……はぁっ、はぁっ!」
“
異形の細腕が、侵し損ねた
「エレンローズ! 跳べ!!」
シェルミアを抱えたまま、ゴーダがダンッと“
そのすぐ後を、エレンローズが追って飛び降りる。
「…………!!」
エレンローズは空中で身を
封魔の
「ホロホロホロ……」
空中に
ゴーダの腕から、シェルミアが離れていく。
「ちぃっ……ローマリアぁ!」
ぐるぐると乱暴に回転する視界の中で、暗黒騎士が魔女の名を呼んだ。
……。
次の瞬間には、空高く巻き上げられていた
急激な足下の変化に平衡感覚が付いていかず、
数歩離れた位置には、エレンローズがふらつきながらもどうにか両脚で立っていた。
しかし、シェルミアの姿だけが見当たらない。
ゴーダが急ぎ周囲に目をやっていると、頭上から悲鳴が聞こえた。
「……ぁぁぁぁぁああああっ……!」
上空から落下してきたシェルミアを受け止めたのは、その声に反応してさっと駆けだしていたエレンローズ。
「……う゛っ!? ……あ、ありがとうございます、エレン……」
落下の衝撃に顔を
「…………」
見たことのない角度から仰ぐエレンローズの無言の顔は、シェルミアの知らない
「っ……」
目を丸くしたシェルミアの顔が赤くなったのは、落下の衝撃か何かのせいだったろうか。
「はぁ……いつまでそんなままで固まっていますの? お二人さん」
「!」
ローマリアがどこか面白がるように言ったのを耳にして、シェルミアは慌ててエレンローズの腕から下りて大地に立つ。
「っ……もう少しまともな着地という訳にはいかんのか、元師匠……」
頭を振って
「まぁ、嫌ですわ……どれだけ宙をくるくると暴れ飛んでいたか自覚がありませんの? そんな状態の3人中2人、遠隔の“瞬間転位”で着地させるなんて、
そう言ってツンと顔を背けた魔女の横顔は、「心外ですわ」と殊更に不満げ。
4人がそうこうしていると、“イヅの大平原”がズズンと震えた。
「……ホロホロホロ……」
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