30-8 : 集結
「……“
“三つ瞳の魔女ローマリア”の力を借りて“宵の国”中央へ送り出していたシェルミアが、突然エレンローズと“大回廊の4人の侍女”を引き連れて目の前に現れたことに、ゴーダは大いに驚いていた。
しかしその驚きも、彼女らによって知らされた、黒い剣についての
「“原初の闇”……? 過去を
ゴーダ、ローマリア、ガラン、エレンローズ……その場に集った者たちへシェルミアが説明を続けながら、暗黒騎士の言葉に肯定を返す。
「はい。“宵の国”と“明けの国”は、古くは“原初の闇”を封じる土地結界として興されたものであったと。盟約はもう、人間にも魔族にも忘れ去られて、どこにも
「御賢明ですわ。永い時の中で伝承が途絶えて、結界としての
感心するように口を挟んだのは、ローマリアである。
「既に起きてしまった出来事をなかったことにできる力だなんて……
魔女の嘲笑が、今までになく辛辣に皆の胸に突き刺さる。
「けぇっ! おもしろうもない冗談じゃのう。要はあのけったいな目玉つきのブッサイクな剣が悪いっちゅうことじゃろ? ほんならそんなモン、さっさとへし折ったりゃええんじゃい!」
ローマリアの横で、ガランが
「――皆様が御想像されるほど、“原初の闇”は万能でも都合の良い存在でもございません」
腹の前で丁寧に両手を重ねて背筋を伸ばした姿勢のまま、“大回廊の4人の侍女”が言葉を継いでいく。
「――我ら“
「――あれは言うなれば、この世の始まりに紛れ込んだ濁りのようなもの。ゆえにこの世の何ものとも、本質的に
「――本来存在してはならぬものであり、どこにも行き場のない存在。どこまでも純粋な闇であり、悪であり……決して消し去りきれぬ
「ほ……ほへ……?」
侍女たちの解説を聞いたところで、ガランには何のことかさっぱり分からず、女鍛冶師は口をあんぐりと開けて固まるばかり。
「あら、まぁ……わたくしの“
そう言って
「ローマリア、妙な気を起こしてくれるなよ……」
ゴーダが真顔で魔女を見つめて、
「ふふっ、なぁに? 心配して下さっているの? 分かっていますわ……今のお話で、『分からない』ということが分かりました。見境なしに過去の事象そのものを崩壊させる……確かにそんなものは、この世のあらゆる存在にとって害悪でしかありません。ええ、あれの破壊、わたくしとしても協力は惜しまなくてよ」
「“宵の国”東西の守護者と共闘が
シェルミアがそれこそ握手を求める勢いで、協力的でいるローマリアへ歩み寄った。
が、さっと長い黒髪を払ったローマリアの仕草はどこか冷たく、シェルミアが近づくことを拒むよう。
「……勘違いなさらないで? 別にわたくし、
そう言うと、魔女はこれ見よがしにわざとらしく、ゴーダの片腕に自身の両の細腕を蛇のように絡めて身を寄せた。
「ちょっ……!」
ぎょっとしたゴーダが飛び上がる。
「んふふっ、あら? 嫌だなんて、そんなこと
「え、ええい! や、やめんかっ……こんなときに……!」
ローマリアの猫
散漫になりかけているその場に、
「……ん、ん゛ん゛っ! 全く……まとまりというものを知らん大所帯だ」
ゴーダが顔を一
「気を引き締めろ。“
暗黒騎士が、決起の言葉を投げかける。
ここに集うのは、この戦争の真相を知り、さらには絡みに絡んだその縁の奥底から
魔族と人間という種族の隔たりを越えて、想いはそれぞれに違えど、目的と志を共にする戦士たち。
浮き足立つのも、無理はない。
国と国の争い事に
彼ら彼女らをして、当事者としての自覚を持てないほどの重圧と戦慄。
来るところまで来た――皆が皆、胸の内でそれぞれ感慨に浸る。
……。
大地に突き立つ黒い剣に、誰からと言わず正面から向かい立つ。
……。
“魔剣のゴーダ”が、銘刀“蒼鬼・真打ち”を抜いた。
「今更、誰かの指示に従えなどとは言わん……各々が、
“明星のシェルミア”が、それに合わせて“運命剣リーム”を構えた。
「死ぬまで、醜く
“右座の剣エレンローズ”が、“守護騎士の長剣”を封魔の
「…………」
“三つ瞳の魔女ローマリア”が、
「ふふっ……この世を滅ぼすのも、救うのも……それは命ある者の意志が
“火の粉のガラン”が両の拳をかち合わせ、パチリと火の粉を舞い飛ばす。
「こりゃあ、とびっきりもとびっきりの鉄火場になったのう……ガハハ! 最高に燃えよるわいなぁ!」
“大回廊の4人の侍女”が、大胆にたくし上げたスカートの下から真っ白な美脚を
「――この身に余る晴れ舞台にございます。給仕服姿で大変恐縮にはございますが、どうぞ一曲とは言わず二曲三曲、お楽しみ下さいませ」
各々に己が武器を手にして、その先に見据えるは“
“それ”もまた、ここが己の存亡をかけた決戦の地であると理解する。
対となる
ズチャリ……ズチャリと、災禍を引き寄せる呪いの水音を立て、不可知の闇底に意思とも本能とも怨念ともつかない何かを
この世全ての存在に敵対するものとはいえ、それが“
ズチャリ。ズチャリ。ズチャリ。
崩壊した“イヅの大平原”。黒い剣の突き立つその周囲数十メートルに、あらゆるものに増して
影が。影のみが漂うその空間が、遅れてその影の実体たる存在を
敵対する生命を抹消する
……。
「……ホロホロホロ……」
この世の
ここより先は、生も死も何もない。
太古、“
そんなものを前にして。
しかし、後ろに退く者は、誰一人としていなかった。
果たさなければならないものがある。
過去を、無数の命が積み上げてきた想いの軌跡を否定するその存在を、打ち破る
そして最強の暗黒騎士が、言葉を束ねた。
「喜ぶのも、悲しむのも、
……。
……。
……。
「ここにいるのは、精鋭も精鋭――世界の1つや2つ、どうにでもしてみせろ!」
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