27-6 : 御用件
「――“明けの国”より、“王子アランゲイル”様」
女たちの声が、響き合うこともせずただ単一の声となって、
「――その御身分に相違なきこと、確かに承りました」
ガコン。と、太い
「――ここは“宵の国”の中心、“
「――御身分に偽りなき方々を、拒むことはございません」
「――申し上げました通り、門をお開けいたしましょう」
「――どうぞ、お入り下さいませ……」
ギイィッ。
「なるほど……どうやら、少しは話が分かるらしい……」
ギイィッ。
……。
ギイィッ……。……。……。
開かれゆく門が、人1人が通れるか通れないかというところまで滑り動いたところで、ピタリと止まる気配があった。
「…………」
門の向こう、城内から漏れ出る光に半身を照らし出されたアランゲイルの、じっと口を噤んでいる姿が闇の中に浮かび上がる。
ギギ、ギ……。
門扉が、奇妙な音を立てていた。何か、開こうとしているところを無理やり制止されているような、2つの力が
ギギ、ギギギ……。
「……話せば分かる相手だということは、理解した」
ギ……ギギギ……。
「……だが……私は、話なんぞをするために、こんな所にまで来たのではない」
ギギギ……。
……。
……。
……。
「始めに、言ったであろう――私は、貴様等を滅ぼすために、やって来たのだと……」
……。
……。
……。
――メギリッ。
門を支える巨大な
「――グルルル……」
巨人の魔族兵が――ここに至るまでに喰らったその
「迎え入れる必要などない……元より、迎えられてやる気など
コツ、コツ。と、アランゲイルがふらつく足取りで、こじ開けた門のあった境界を越えた。引き
「それだけで、いい――後は、この器を得た呪いが……全て壊し、貪り散らし、殺し尽くすだけのことよ……」
「――グァルルァ!!」
残っていたもう片方の門に両手をかけた“巨人の形の呪い”が
「――ガァアアァァァアアッ!!!」
有り余る力と、破壊衝動と、
「ふん、知恵足らずの大猿が……そんなものをゴミの山に変えたところで、何だというのだ」
“
「――ウグルァアアァァァア!!!!」
理性を持たず、獣ほどの自制もない真紅の呪いが、その大きな拳を主に向けて振り下ろした。押しのけられた空気が渦巻き、ごうと風が巻き上がる。
「……うるさいと……何度言わせる……」
ズチャリ。と、水風船に刃物を突き立てたような音がして、王子が逆手に持って背後に刺し出した“人造呪剣ゲイル”が、自らが生み出した“巨人の形の呪い”の拳に、その真紅の刃を食い込ませていた。
「――グル……ガ……ヴァァァ……」
呪剣に貫かれた呪いの果実が、断末魔のような
「……ようやく黙ったか……野良の犬畜生の方が、まだ物分かりがいい……全くもって、使えん
ちらと背中に侮蔑の視線を投げて、アランゲイルが鼻で笑い飛ばす。
「ふん……」
……。
「貴様等も……
ゆらり。と、猫背の首に座っていない頭を乗せた体勢で、王子がぎょろりと前を向き直ったその先に、いつの間にか“大回廊の4人の侍女”が並び立っていた。
「――左様にございますか」
背筋をぴんと伸ばし、ベールに目元を隠した顔をわずかに上に向け、腹の前に両手を重ねて礼節の整った直立姿勢のまま、精密な等間隔で整列した侍女が無関心にそう答えた。
侍女が、合図を送り合う気配もなしに、一斉に右脚を左脚の裏へと回し、膝と腰をゆっくりと折った。頭を下げると同時に、摘まんだ長いスカートの裾を軽く持ち上げ、ひらりと広げる。そうしてそれまでの
「――ようこそ。我らが主、“
眠りを忘れた目元に大きな
「……よく、
「――お褒めに預かり、恐縮にございます」
1人目の侍女が、深く下げた顔にベールをひらりと垂らしながらしずしずと言った。
「――さばかりのこと、さしたる問題にはございませぬゆえ」
2人目の侍女が、ふわりと歌うような声で
「――お客様をお出迎えいたしますこと、我ら“大回廊の守護者”のお役目にありますれば」
3人目の侍女が、やんわりと諭すように涼やかな声で述べた。
「――侍女たる者、礼を欠いては陛下の御品位にも関わりますので」
4人目の侍女が、ゆるりと奥ゆかしい仕草で舞うように背筋を伸ばした。
そして4人の侍女が、4つの声を単一の音に重ねて問うた。
「――アランゲイル様。
……。
「…………」
……。
うなされるような吐息の音を漏らすばかりで、アランゲイルは何も口に出そうとはしない。
……。
「――?
“大回廊の4人の侍女”が、小首を
……。
……。
……。
――ヒュッ。
空を切る冷たい音が、アランゲイルの耳元を
「……」
「――……」
「――……」
「――……」
「――……」
アランゲイルの見やる先で、小首を
……。
……。
……。
「……よぉ。そいつで、返事になるかねぇ? 召し使いさんたちぃ」
……。
……。
「……ひははっ」
外界に
「――はい、十分にございます」
投げられたダガーを指先で止めてみせた侍女が、目元を隠したままニコリと
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