26-24 : 道化
――。
――。
――。
「……くく……くくく……」
“呪い”の情景を脳裏から追い出して、アランゲイルが自嘲の
「私は、とんだ道化だ……自ら生んだ子よりも権力に目の
“シェルミア”。その名が自然と独り言の中に
そして再び、自嘲の
「シェルミア……ああ、お前のことを必死に何かから
……。
……。
……。
「――ひははっ……」
アランゲイルの乾いた
――ズチャリ。
「ギギャギャ」
その声に反応して、“人造呪剣ゲイル”が
宵闇にバチリと
真紅の刃に引き戻された呪いの枝先には、焦げ付きズタズタに引き裂かれた実がぶらんと垂れ下がっていた。
「……近寄んなよぉ、アランゲイルぅ……俺までそいつに喰われっちまうだろぉがぁ」
影の中から星の光の下へ、顔だけを
「私へ忠誠を誓っていた銀の騎士たちすらこのゲイルは喰らったのだ……今更、騎士であることを放棄した者を喰らったところで、問題などなかろう」
ニールヴェルトをギョロリと見やるアランゲイルの目は、その男をもう人間としてすら見ていなかった。
「ははっ、俺の生き
“人造呪剣ゲイル”の感知範囲から外れた先へ移動しながら、ニールヴェルトが吐き捨てるように言った。
「人がせぇっかくぅ、あの暗黒騎士に力負けしてぇ、最っ高の死に場所を手に入れたってぇのによぉ……転位の
手をひらひらと振って、ニールヴェルトが歩き去っていく。その後を、アランゲイルが追いかけるでもなく、重い足と呪いを引き
主従関係も何もが破綻した2人だったが、それぞれが向かう方角は皮肉にも同じだった。
「死にたがりの狂人が……ならばさっさとこの呪いの餌に名乗りを上げればいいものを」
「だぁれがそんな不細工な剣に喰われてやるかよぉ。俺は死にてぇんじゃねぇよぉ……俺ぁ、誰よりも生きてる実感が欲しいだけだぁ……そうするための1番手っ取り早い方法がぁ、戦場にあったってだけのことでさぁ」
「そのなりで騎士になったのも、それが目的か」
「他に何があんだぁ? それがなくて、だぁれがこんな面倒くせぇもんになるかよぉ」
……。
……。
……。
「ニールヴェルト……騎士であることを放棄した貴様が、今更どこに向かっている?」
狂人の背中に向けて、アランゲイルが問うた。
「もうここには、“魔剣のゴーダ”はいねぇ……だがなぁ、ここぁ、“宵の国”だぁ」
ピタリと足を止めたニールヴェルトが、振り返ることもせず言葉を返す。
「だったらよぉ、挑むのは一箇所しかねぇだろぉがぁ」
「……くく……騎士を辞めたところで、貴様の行き先は同じではないか」
ニールヴェルトの言葉を聞いて、アランゲイルが思わず
「ひははっ。目的は変わらなくてもよぉ、アランゲイルぅ。あんたを
「そうか……ならばついでに覚えておけ、ニールヴェルト。私を
「ひはははっ! アランゲイルよぉ、あんた、本当に言うようになったじゃねぇかぁ……」
アランゲイルの冷たい声に、ニールヴェルトが
「その言葉ぁ、そっくりそのままあんたに返してやるぜぇ。せいぜい、俺が気まぐれ起こしてあんたのことぶっ殺しちまわないように気をつけなぁ……ひははっ」
……。
……。
……。
――もはや、理由も大儀もない……。
アランゲイルが、心の内で小さく
――私の生が、私の歩みが、この真紅の呪いを背負う
――この呪いが、この飢えが満ちるまで……喰らい尽くすまでのこと。
……。
……。
……。
――「王子殿下」
記憶の中に聞こえるそれは、アランゲイルに“宵の国”への侵攻を
ボルキノフという人の皮の下に、アランゲイルはどす黒いものを見ていた――これまで見てきたどんな醜い人間のそれよりも、自分の抱える黒い塊よりも、もっとずっと
“あれ”はあながち、本当に人間ではないのかもしれんな――遠い“宵の国”の地から、アランゲイルはそんなことを唐突に思った。
だが、そんな
この、どうしようもなく絡みつき、
……。
……。
……。
――「王子殿下」
――「“宵の国”を攻め、御自身のお力を示されようとするならば、彼の地の中心を目指されるがよい」
――「血を、求められるがよろしい」
――「……彼の国を、統べる者の血を……」
――「そこに、あるいは
……。
……。
……。
“王子アランゲイル”。そして“
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます