26-15 : 信託
……。
……。
……。
「……。……ローマリア……――」
「――エレン!」
「!」
階下にシェルミアの声が聞こえた途端、ゴーダは手の上に開いていた魔法書をバタンと勢い良く閉じて、それを書棚の中へ押し戻した。
「……シェルミアか?」
「……? ゴーダ卿……どうしてこんなところに……?」
「……。それはこちらの
相手は全く事情を知らない“明けの国”の姫騎士であるとはいえ、
「何か問題でもあったのかね?」
「……」
ゴーダの問いかけに、シェルミアが回答を
「……。……シェルミア、知っているか? 貴公は何かを
「!――……。……。……。」
ゴーダの忠告にはっと顔を上げた後、
「……。……魔女か。あいつが何か茶々を入れたな」
「ゴーダ卿……まさか知って……?」
シェルミアの目に、疑念の色が浮かぶ。
「いいや、勘だよ。奴とは付き合いが長くてね。そんな気がしただけだ」
万が一にもここで何をしていたのかなどと尋ねられぬよう、ゴーダが何でもないというふうに平静を装って肩をすくめてみせた。
「まぁ、私は“宵の国”の魔族で、貴公は“明けの国”の人間だ。お互い立場上、怪しむなという方が無理があるのかもしれんが……私からは『信じてもらえるとありがたい』としか言えんよ。“不毛の門”でもそうだったようにな」
「私は……! 私は……信じたいと、思っています」
ゴーダに図星を突かれたことを――階上に立つ暗黒騎士と、エレンローズを連れて姿を消した魔女とが何かしら結託しているのではないかという考えが一瞬頭をよぎったことを悔しがりでもするように、シェルミアが苦い顔を浮かべた。その拳が、固く握り締められている。
「この私が、東方に攻め込んだ貴国の兵士を5万近く
感情のない声で、ゴーダが言った。
シェルミアが険しい顔を上げる。トカゲの瞳孔のように変形した左の瞳は、暗黒騎士の発した言葉自体を
「ゴーダ卿……その言い方は、
肩を揺らしながら広い歩幅で歩くシェルミアの態度は、明らかに怒っていた。
「私が、そんな人間に見えますか。最も重要なときに実の兄を止めることはおろか……逆に兄の策略に
「……」
「……」
「……貴公を試すような
そう言って、ゴーダが軽く
「シェルミア……いい機会だ。この場で今一度、貴公に問う――」
暗黒騎士“魔剣のゴーダ”の、心まで見透かすような冷たい視線が問いかける。
「――
ゴーダの言葉の前に、シェルミアがそっと目を閉じて何かを思う間があった。そしてすっと小さく息を吸い込んだ後に上げた顔には、もう迷いの色はなかった。
「――はい。
「ゴーダ卿。
……。
「剣と騎士の誇り、か。何の保証にも、何の担保にもならん口約束だな――」
そう
「――だが、これほど信用に足るものはない。そうだろう?」
――そして“魔剣のゴーダ”は、
「シェルミア殿。貴公のその信託に、心からの感謝と、それと釣り合うだけの我が信頼をここに――剣と、暗黒騎士の誇りにかけて」
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