26-11 : 女2人
片時も離さずシェルミアの手を握り締めていた右手が、今は空を
シェルミアの眠る硬いベッドの傍らに膝をついて
目の前に広がるのは、
「……ふふっ……うふふっ……」
その声は、シェルミアのものではない。
長い黒髪をさらりと垂らして、何の感情なのか計り知れないもので頬を
「
「……」
向こうから名乗られるまでもなく、エレンローズはその女のことを知っていた。
“三つ瞳の魔女ローマリア”。双子の弟、“
「その
……。
……。
……。
「――ここの感触も……うふふっ」
ふいに重ねた唇を離しながら、目の前でローマリアが文字通り魔女的な笑みを浮かべた。
「……」
「……
薄いローブ越しに浮かび上がる、女の身体を扇情的にくねらせながら、ローマリアがエレンローズの耳元に
「この
「……」
顔を上げたローマリアが、鼻先が触れ合うほどの距離からエレンローズの目をじっと見つめた。
「エレンローズ……ふふっ、えぇ、
魔女の
「
そう言うと、ローマリアはエレンローズを組み敷いたまま、再び唇を重ねた。ぬるりと伸ばされた魔女の長い舌が、ナメクジのように女騎士の
グチュッ。
その肉の
眼帯が外され
「……ンふふっ」
……。
――ガリッ。
そして、ローマリアの右目が更に裏返るよりも先に、絡み合う舌にエレンローズが歯を立てる音があった。
……。
「っ……。
瞬間転位によってエレンローズから離れたローマリアが、
「それとも、痛みを伴う方がお好きなのかしら? うふふっ……」
「……」
ローマリアの視線に負けず劣らずそれを
そこは一面見渡す限りの星空に包まれた、現実味のない場所だった。石畳の敷き詰められた巨大な円形の広場のような場所に、ティーカップを据えられた丸テーブルと、椅子が2脚置いてあるテラスのようなものがあり、そことは正反対の位置に何やら大きな仕掛けの魔導器のようなものが組み付けられている。それ以外には雨を防ぐための天井もなく、壁も、窓も、扉もない。
そこは眼下に群青色の雲海を見下ろす、夜空に浮いた箱庭だった。
「ようこそ、わたくしの“鐘楼”へ。
口の中に
まるでそれは、エレンローズがどれだけの憎悪を自分に向けてくるかを値踏みし、期待しているかのようだった。
「…………」
しかし“鐘楼”には、ローマリアが求めるような戸惑いの声も、絶望の悲鳴も、憎悪の叫びも響かなかった。
そこにはただじっと、魔女の
「……? あの渓谷でお見かけしたときから不思議に思っていましたけれど……
「…………」
魔女の問いに、返ってくる言葉はない。
「……。ふふっ、あら、そぉ。ロラン様の“中”を
そう言うとローマリアは、白目を剥いた右目に手のひらを
――ぐるり。
手のひらに隠されたその下で、眼球の
「……――ふぅん。存外、取り乱してはいないのですね……冷たい女ですこと。少し興醒めですわね」
――『何? もしかしてその目、私の考えてることが分かるの?』
「えぇ、この“星の
――『気味の悪い
「うふふっ……
2人の女が視線を飛ばし合い、魔女だけが延々と独り言を口にする奇妙な光景が続いた。
魔女の右目に、エレンローズの感情の色と形が鮮明に写る。それは色
不安の色。不吉な予感に揺れる形。次にやってくる言葉を否定しようとしながら、半ば確信してしまっている心の動き。
「――ええ、
エレンローズのその心の形に応えるように、嘲りと悪意を込めて、ローマリアが言った。
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