23-2 : 終わるべきだった物語
夜が更け、雲1つない夜空の上で星の配置が移り変わっていく。草木の間でしきりに鳴いていた虫たちもいつの間にか眠りに就いたようで、星明かりに照らされた紺色の世界からは
魔物除けにと
「…………」
ゴーダの言う通り、無理にでも食べ物を胃の中に入れてからというもの、エレンローズの意識にずっとかかったままでいた濃い
しかし、頭の中でぐるぐると回り続ける渦がそれで治まったわけではない。
唐突に
その発作のようなものの波が引いた合間に自分の置かれている状況を考えると、エレンローズはますます頭が混乱してきていた。
原生林の中、大木の
あれは、あれこそがきっと“死”というものだったのだろうと、エレンローズはぼんやりと思い返す。その鮮烈な記憶も、肉体と意識の
あの場でそのまま死ぬことが、最も自然なことの成り行きだったに違いないとエレンローズは
そして次にエレンローズの中に浮かんだのは、疑問だった。あそこで死んでいるはずだった私は、
“宵の国”東の四大主、“魔剣のゴーダ”。意識が戻って目を開けた直後は、目の前で黒馬に
だから同じ剣を持つ者として、
この剣士は、一体何がしたいのだろう。
私は、どうするべきなのだろう。
そんな疑問が湧いては消え、消えては湧いてを繰り返す。
眠れなかった。眠れるはずがなかった。身を
何の前触れもなく、反逆者の汚名を着せられ突然姿を消したシェルミア。それと入れ替わるように団長の座についたアランゲイル。それを契機に、一気に“宵の国”への侵攻の機運が高まっていった異様な空気のにおい。
……肌を
……息ができなくなるほど固く抱き締め合った双子の弟の、優しい声。
――四大主を、殺せ、エレンローズ……そうすればシェルミアの件、一考してやろう……。
――僕らならきっと、四大主を殺して、あいつに約束を守らせることができるよ、姉様。
「…………」
確かにこの状況は、千載一遇の機会だった。味方はいないが、相手も1人。不用心に眠っている今、それをやらない理由はどこにもなかった。
「…………」
剣の柄に、エレンローズが恐る恐る指先を伸ばす。
鼓動が一段早くなり、心臓が胸の中を
「……はぁ……はぁ……」
噴き出した汗で、手のひらがべっとりと
――殺せ、エレンローズ。
――殺すんだよ、姉様。
繰り返される幻聴に押され、意を決したエレンローズが運命剣の柄をぐっと握り締めた。
「はっ……はっ……ぁ゛……」
過呼吸になった
――殺せ……殺せ……。
「はぁ゛っ……! はぁ゛っ……!」
手が震え、思考が止まっていく。前後の脈絡が途切れ、自分が今なぜこんなことをしているのかも分からなくなってきていた。
――殺せ……四大主を殺せ……魔族を殺せ……殺し尽くせ……。
ただ意識の底に聞こえるその声だけが、どこか深い
「……あ゛……うぅ゛……うぅ……っ!」
熱病に冒された病人のように目を丸く見開いて、エレンローズがゆっくりと、運命剣の柄を握った震えの止まらない手を持ち上げていく。
「はっ……はっ……!」
――こ、殺さ、なくちゃ……! 四大主を、殺して……シェルミア様を、た、助けなくちゃ……!
手の震えの伝わった刀身が、
……。
……。
……。
――エレン……。
発作で
……。
……。
……。
「――……やめておけ」
「っ!」
先ほどと同じ片膝を立てた姿勢のまま、うっすらと片目を開いて、“魔剣のゴーダ”がぽつりと
エレンローズの手元からふっと力が抜けて、わずかに引き出されていた運命剣の刀身が
「……ぁ……!」
「殺気と気配の消し方がなっていないな。それに、迷いが余りに多すぎる……」
「…………」
「何が見えていたのか知らんが……黙って殺されてやるほど、私もさすがにお人
「……っ……」
「忠告は、1度きり……見逃すのも1度きりだ」
「…………」
「生き急ぐな……“明けの国の騎士”」
……。
それだけ言って、“魔剣のゴーダ”は再び目を
……。
……。
……。
「ぁ……ぅ゛……ぉ゛ぇ゛ぇ゛……! ひぐっ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ……!」
夜の
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