22-10 : 暴力
「……ひはっ……ひははっ……」
ゴーダのその言葉を聞いて、ニールヴェルトは数秒間沈黙していたが、やがて肩を震わせて含み
「……ひはははっ! あぁ……“よかったぁ”。なら、いいんだよぉ、そぉいうことならよぉ……」
ニールヴェルトの口角が
「俺ぁよぉ……てっきりあんたに、無視されてんのかと思ってたぜぇ……」
更に1歩、ニールヴェルトが前に進む。そうした瞬間、二の腕の
しかし狂騎士は、
「四大主の中でも最強って
1歩進むごとに、ニールヴェルトは傷を負っていった。そのどれもが致命傷にはならない傷だったが、それは決して狂騎士がゴーダの見えない残像をすんでの所でかわしているからではない。
それはただただ、
「俺の相手をするのが不快だってぇ? ひはははははっ!! 最高じゃねぇかぁ……あの“魔剣のゴーダ”様がよぉ! この俺のことをさぁ! そぉいう目で見てくれるなんてよぉ!! ひは、ひははははっ! あんたの殺意を感じるぜぇ! イイねぇ……! 生きてるって感じがしてくるなぁ!! “死”が隣で俺のこと握り
自分の血に
「あぁ、気ン持ちイィなぁ……もぉ、死んでもイイやぁ……」
そして天を仰ぎ見た狂騎士が、その口を裂けるほどに大きく広げ――。
「――ひはハはははハはははハあぁぁぁアぁぁァァっ!!!」
およそ理性のある者とは思えない声で、ニールヴェルトが忘我の
「闘争の狂気の中でしか生きられんか……
その様子を空中から見ていたゴーダが、ぽつりと一言、そう漏らした。
「あァ、何とでも言ってくれぇ……それはこの俺が、1番よぉく知ってることだからよぉ……」
「改めて、礼を言わせてくれぇ。誉れ高き東の四大主、“魔剣のゴーダ”と
それを頭上から見下ろすゴーダの目には、ただ争いの中にしか生きる目的を見出せない、1人の人間の姿だけが映っていた。
「……もう1度、名を聞いておこうか」
ゴーダが冷たい
「ニールヴェルト……“
「そうか……“
……。
“
……。
“魔剣のゴーダ”は、騎士とは認めぬその人間を、ただ己の力で
……。
そこには誇りも信念も大義もなく、ただただ、強大な暴力の予感だけ横たわっていた。
……。
……。
……。
「……――“風陣”……」
……。
「……――“雷刃”……」
ニールヴェルトの両腕に
「ひははっ……よぉ、死んじまってから『得物がなかったせいだ』なんて言い訳は無しだぜぇ? ゴーダぁ……」
「案ずるな……愛刀を持ち合わせない程度のことで名折れになるほど、“魔剣”の二つ名は
……。
……。
……。
両者の間に青い稲妻が走り、パチリと空気が揺れた。
ニールヴェルトを核として旋風が吹き乱れ、負圧となったその中心に向かって強風が流れ込む。枝葉、拳大の岩、ゴーダの作り出した見えない残像たち……あらゆるものが風の断層に引きずり込まれ、無数の真空の亀裂によって粉微塵に刻まれていく。そしてそこに
「――“
巻き上がる
「技も読みも、これでは意味を成さんな……」
ゴーダが素早く腕を振り、ニールヴェルトから奪い取った1本のダガーを投げた。その刃は荒れ狂う嵐の一瞬の間隙、刹那に
「ひはははぁっ!!」
その切っ先がニールヴェルトの脳天に突き立とうとした正にその瞬間、風の流れがぐるりと
「すンげぇ芸当だなぁ、ゴーダぁあ! だが効かねぇよぉ!! ひははっ! まさかこれで終わりじゃねぇよなぁ! 次の手出さねぇとぉ! このまま粉々になっちまうぜぇえ!!! ひははははぁあっ!!!!」
ニールヴェルトの狂喜の声が嵐に乗って、
「……いや……狙い通りだ……」
嵐と雷の
「――“魔剣四式:
“魔剣のゴーダ”、第四の魔剣。その手から離れた武器を再び己の元へと呼び戻す、限定された転位術式。刀身を
転位の精度が散漫となり、呼び戻されたダガーは空中に立つゴーダの手元からはほど遠い虚空へと出現し、それは再び地面へと落下していった。
「剣には剣を……技には技を……そして……暴力には暴力を、だ……」
拡散された転位の術式が、その影響範囲をダガーから周囲に
転位の精密性を捨てることでゴーダの得た物――次元魔法によって
「……ひははは! ひはアひははヒはっ!!
空中に出現した膨大な質量が、重力に引きずられ落下を始める。その巨大さの余り、まるでゆっくりと落ちていくように見えるその光景は、
ニールヴェルトの巻き上げた全てを砕く嵐と、ゴーダの落とした地殻の塊とが空中で衝突し、ズドンという重く低い爆発音が
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