22-8 : 天才と凡夫
「……なかなかいい勘をしている。武芸の型よりも、自分の感覚に忠実なようだな」
腕と脚に突き立った太矢を引き抜き、それをへし折りながらゴーダが低い声で言った。
「ああぁ、そぉなんだよなぁ……直そう、直そうって思うんだけどなぁ……ついつい、やっちまう。“狩り”ンときはそうでもないんだけどなぁ、俺より強ぇ奴を相手にすると、特になぁ……。ほら、俺、型に
「才能に恵まれているな、羨ましい限りだよ。ひたすら型に
「あぁ? あんたぁ、“宵の国”最強の騎士なんだろぉ? 何言ってんだぁ?」
ゴーダの言葉に、ニールヴェルトが奇妙なものでも見るように首を
「事実を言ったまでだ。私は凡夫の生まれでね。ただ――」
自身の動物的な勘に任せて、破天荒で
「――ただ、私には、我が
「ああぁ、そぉ……よく分かんねぇけどぉ、きひっ、どうでもいいぜぇ……。あんたは俺より強ぇ………挑戦者は俺でぇ、それを迎え撃つのがあんただぁ。それだけのことがありゃぁ、後はどぉでもいい……」
そう言って、獲物に飛びかかろうとする猛獣のように姿勢を低く構え、悪魔のような
「きひっ……――“風陣:
全身のバネに加えて、その身を吹き飛ばす風を
「貴様には間違いなく闘争の才能がある……――もっとも、私にはそれを補って余りあるだけの永い修練の積み重ねがあると、自負しているがね」
獣の本能に恵まれた狂騎士と、鍛練の歴史を積み上げた暗黒騎士とが交差した瞬間、激しい衝突音がして――ニールヴェルトの斧槍が宙に
「ひははっ! すげぇよ……すっげぇよあんたぁ! ひははっ、ひはははははっ!!」
……。
「――狙い通りだぁ……」
ゴーダと交差し、武器を
その右手には、吹き飛んだ拍子に地面から引き抜かれた“カースのショートソード”があった。
――バチリッ。
空中で身を
その稲妻が向かう先は、暗黒騎士に
「――“雷刃:
斧槍の刃に達した稲妻が目を
耳をつんざく爆音が辺り一面に
「……っ……」
長雨に冷やされた空気が雷撃の落ちた一帯へと流れ込み、
「ひはははっ! まぁったく、魔族ってのはほんとに頑丈にできてんなぁ!」
“カースのショートソード”を地面に突き立てて制動をかけたニールヴェルトが、雷の直撃を受けたゴーダを見やりながらグニャリと
「……あぁ、そうだな……我ながら、そう思うよ……」
そう
「ひははっ、そぉいやぁよぉ、あんた、“魔剣”はどぉしたんだぁ? まさかその棒切れがそうだってんじゃねぇよなぁ? ひはははっ」
「……何、うっかり手元から消してしまってね……。まぁ……この場は“これ”で、十分だろう……」
ゆらり。
ゴーダがゆっくりと持ち上げた右手には、1本のダガーが握られていた。
「……! おいおいぃ……そりゃぁ、俺のダガーじゃねぇかよぉ。まさかさっきのどさくさで俺のベルトから抜き取ったってのかぁ……?」
「ああ、拝借させてもらった……さて、どうやら我が“魔剣”を御所望のようだが――」
ゆらり。
左手に
「――私の生まれた国には、“
地面に立てた
「……ひはっ……ひははっ……ひぃははははははははあぁっ!!!」
東の四大主の放つ針のような気配に全身を包まれて、“
「なァんだこれぇッ?! きひっ、あヒッ、ひははははっ!!
その口を、裂けてしまうのではないかというほどにグパリと開けて、狂騎士が身体を
「アぁ……イイなぁ……キマりすぎてぇ、頭オカシくなっちまいそぉだぁ……! んンンンあぁ……」
ニールヴェルトが再びその身を地に伏せて、狂おしい獣の構えを取る。
「きひっ、きははははっ」
そんな狂騎士の姿を見やる“魔剣のゴーダ”は、両手を添えた
「先手は譲ろう……」
暗黒騎士の眼光が、真っ
「獣の剣で、この“魔剣のゴーダ”にどこまで届くか、試してみるがいい……」
……。
……。
……。
「――“風陣:
ニールヴェルトが、大地を駆ける風を
「――“雷刃:
爆砕の雷をその身に宿し、狂騎士が全身を
……。
……。
……。
「ひははっ」
ドンッ。と、風の塊が大地を蹴り上げ土砂を巻き上げる。雷を
「ひはははははははぁあっ!!!」
……。
……。
……。
「――魔剣……“五式”――」
“魔剣のゴーダ”が、ふぅーと深く息を吸い込み、ふわりとわずかに、地に突いた
「――“
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