22-2 : まるで氷のような
「あーららぁ、なんつーざまだよぉ、エレンローズぅ……ひははっ」
大木の
「死んだ魚の方が、まだマシな
ニールヴェルトの
「……あぁ? おぉい、聞こえてるかぁ? せっかく
だらりと首を
「……?」
エレンローズの顔は、表情筋が
「おい……おいおいおいィ、何だぁそりゃあ? 呆けてんじゃねぇぞコラぁ」
女騎士の
「俺のこと忘れやがったのかぁ? ほら、俺だよぉ、エレンローズぅ……ニールヴェルトだよぉ」
「……ニール、ヴェルト……?」
「そぉだぁ、お前の大っ嫌いなぁ、ニールヴェルトの野郎だぜぇ? 思い出したかぁ? ひははっ」
「……生きて、たんだ……あんた……」
「ひははっ、お前と違ってぇ、この通りピンピンしてるぜぇ? 言っただろぉ? ほら、俺ぇ、強ぇからさぁ、ひはははっ」
愉快そうに
「今、『死んでればよかったのに』って、思っただろぉ? エレンローズぅ……」
「……。別に……」
ぴくりとも表情を変えず、エレンローズが濁った目でニールヴェルトをじっと見返す。
「……別に……もう、どうでもいいよ、そんなこと……」
「あぁ……?……ちっ……」
感情のない短い反応しか返さないエレンローズを見て、ニールヴェルトが舌打ちをしながら引き寄せていた女騎士の
「北の四大主に、1番イイとこ持ってかれちまったぁ……。俺ぁよぉ、この戦争で、四大主と
ニールヴェルトの声音には、
「……俺はなぁ……エレンローズぅ……」
「俺ぁよぉ、いつかお前をこうしてみたいと思ってたんだぁ……。全力のお前と1対1でヤりあってぇ、ねじ伏せたくて
エレンローズを組み伏せたまま、ニールヴェルトの伸ばした指先から、留め具の外れるパチンという音がする。
「……だから……これじゃあつまんねぇんだよぉ……!」
「……っ」
ニールヴェルトが右手に力を込めると、エレンローズの首が絞まり気道が塞がる感触があった。
「俺ぁ、自分より弱い奴を狩るのが好きだぁ……。自分が“狩られる側”だって理解して逃げ回る奴を、追いかけ回すのが大好きだぁ……。そういう奴らの“死にたくない”ってツラを見るのが、
ギリッと歯噛みの音を立てたのは、ニールヴェルトの方だった。
「……エレンん……この腕輪、何だか分かんだろぉ?」
窒息して半開きになった口の端に
――ああ、ロラン……。
女騎士の曇った瞳に生気が戻り、表情の消えた顔がぴくりと一瞬引き
――ロラン……死んじゃったんだ……。
エレンローズの
「ひははっ……そぉだぁ、エレンん……ロランの敵が取りてぇよなぁ? この腕輪、取り返してぇよなぁ?」
押し倒したエレンローズにのし掛かったまま、その様子を見ていたニールヴェルトが期待するような声音で言った。
「俺のことが憎いだろぉ、エレンん? 俺のこと、ぶっ殺したくなってきただろぉ?」
女騎士の首を絞める両手から、わずかに力が抜かれる。それは狩りの相手の反撃を促そうと、狂騎士が意図的にしていることだった。
エレンローズの右手が、運命剣の柄を握り締める。
「来いよぉ……来てくれよぉ……運命剣の力ぁ、俺にも見せてくれよ、なぁ……!」
……。
……。
……。
「……はっ……はっ……!」
女騎士の喉から、
「はぁっ……はっ……ふぅっ……ふぅっ……!」
女騎士の額に、脂汗が浮かび上がる。
エレンローズの息が詰まっているのは、ニールヴェルトに首を締め付けられているせいではなく、双子の弟の死を知ったからでもなかった。
「あぁ……?」
エレンローズの顔色がみるみる青くなっていくのを目にして、ニールヴェルトが
にも
その首を締め付け息をできなくしているのは、エレンローズ自身だった。
“運命剣リーム”の柄を握った右手が、ガクガクと病的に震えていた。その剣を抜こうと手のひらが握り締められるたび、まるで氷の冷たさに耐えかねたようにそこから手が離れるということを、エレンローズは繰り返していた。
――ロランが……死んじゃった……死んじゃったよ……。
……。
――私の……たった1人の家族が……いなくなっちゃったよ……。
……。
――あの腕輪は、絶対に……絶対に、取り返さなくちゃ、いけないのに……。
……。
――……いけないのに……。
……。
――……どうしよう……。
……。
――……駄目だよ……。
……。
――……怖い……。
……。
――……私……もう……剣を抜けなく……なっちゃった……。
……。
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