21-15 : 泣き声
――“宵の国”、中央南部。
「グ……グルブ……」
全身を
「あーららぁ……まぁたハズレだぁ……ひはは」
騎士の姿を成していたユミーリアの分血がただの屍血に
「あーぁ……じれったいぜぇ、ほんっとに……ほれ、次はお前だぁ、じっとしてろぉ……」
ニールヴェルトが周りに目をやって、手近な位置にいた1体の
「ニールヴェルト、貴様、手駒を何十体使用不能にするつもりだ……」
その背中に向かって
「そんなもん、アタリを引くまでに決まってますよぉ、殿下ぁ」
ニールヴェルトがヘラヘラと笑い返しながら、さも当たり前のように言い捨てた。
「貴重な戦力をこれ以上浪費するようなら……貴様の血で
冷たい目を細めて、アランゲイルが腰に
それを背中に聞いたニールヴェルトが、鼻で笑う声が聞こえた。
「はっ、俺の薄っすい血じゃあ、潰した騎士どもの数と割に合わないと思いますけどねぇ? それにぃ、別にこんなもん“貴重”でも何でもないでしょぉがぁ」
ニールヴェルトが鬱陶しげに顎で指した先には、魔族兵の死体から血を
駐屯する魔族兵が全滅した砦の中では、千体近くにまで数を増やした
「減っちまった分はぁ、適当にその辺から“餌”を持ってくりゃいいだけですよぉ。これぐらい見逃して下さいよぉ、っとぉ」
世間話をするような気軽さで
「グッ……ガルッ……」
「はいはい、大人しくしてろぉ。そろそろ当てないとぉ、冗談抜きで俺もあの魔剣に喰われそうだからなぁ」
口角をニヤリと
「ギ……ガブッ……」
術式巻物を心臓部にねじ込まれた途端、
「よっと」
ニールヴェルトが魔方陣の浮かぶ
「……んー……」
首から先が消失したニールヴェルトの声が奇妙な反響音を含んで聞こえ、やがて面白くなさそうな表情を浮かべた狂騎士の頭が戻ってきた。
「あっちゃー……まぁた外したぜぇ……くじ運使い果たしちまったかな、ははっ」
肩をすくめたニールヴェルトが、
「……まだ続けるつもりか?」
顎を上げて狂騎士を見下すようにしながら、アランゲイルが
「全く……“特務騎馬隊”の身体が転位魔法の媒体になるとは……どういう理屈でそんなことが起きているのか知らんが、ミイラ取りがミイラになるぞ。転位先に四大主がいでもしたらどうするつもりだ?」
「ひははっ、転位の術式巻物を使わずに転位できるんだぁ、便利なもんでしょぉ? これを使ってボルキノフの旦那がロランの腕輪を
顔面をぐにゃりと
「ロランの野郎、姫様の“封魔盾”まで持ち出して、結局“三つ
思い出し
「今思い出してもゾクゾクするぅ……知ってますかぁ、殿下ぁ? あの魔女様の後ろ姿、最ッ高にそそるんですよぉ……あぁ、何なら西に転がってる“特務騎馬隊”の死体と転位陣が繋がってくれねぇかなぁ……そうすりゃあ、魔女様と一戦ヤれるのになぁ……」
半月の形にニンマリと目元を
「……チッ。忌々しい……“宵の国”領内の侵攻に成功し、“ゲイル”を手にした今、討つべきは“
「連れねぇこと言わないで下さいよぉ、殿下ぁ。何なら賭けてみますかぁ? 次に繋がる先にいるのが、四大主か、魔族か、それとも人間の死体かってねぇ、ははっ」
「貴様……どの口が言う……」
「ははっ、冗ッ談ですよぉ、殿下ぁ。……あー、分かりましたよぉ。次、次で最後だぁ。次が外れたらぁ、きっぱり諦めますよぉ。それでいいだろぉ?」
アランゲイルの血走った目を見て、ニールヴェルトが
“最後の1体”と宣言した
「……はは……」
「はは……ひはははっ……ほら、俺ぇ、ここぞというときの引き運は強いからさぁ……」
……。
……。
……。
「“アタリ”だぁ……大当たりぃ……」
歓喜の声を上げたニールヴェルトの身体が、転位陣と化した
「待て、貴様……どこへ行く!?」
転位陣の中にゆっくりと踏み入っていく狂騎士の背中に向かって、アランゲイルが叫んだ。既にニールヴェルトの身体の半分以上が、転位陣の向こう側に消えつつあった。
「
それだけ言うと、ニールヴェルトの姿は転位陣の向こうへ消失し、あとには使い捨ての魔方陣としての役割を終えてドロドロに朽ちた
魔法陣が消滅する寸前、ニールヴェルトが“アタリ”と呼んだその“声”が、転位陣の向こうからアランゲイルの耳にもはっきりと聞こえていた。
――……ごめんなさい……ごめんなさいっ……ごめんなさい゛ぃ゛ぃ゛……。
……。
……。
……。
「どぉしたぁ……面白いことになってンじゃねぇかぁ……えぇ? エレンローズぅ……ひははっ……」
……。
……。
……。
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