21-10 : どら息子
……。
……。
……。
道具の作り手・使い手の強い念が、物に宿ることがあるという。
それは様々な伝承の形となって各地で語り継がれる、お
農民・商人たちは言う――それは日々食い稼ぐ
戦士たちは言う――不測の事態を招かぬよう、“相棒”は常に手入れし大切にしてやらなければならないと。
魔法使いたちは言う――魔法の理論など一切ない、そんなものはただの迷信でしかないと。
――。
――。
――。
――“宵の国”、北部。国境線沿い。
東の四大主“魔剣のゴーダ”はそのとき、どういうわけか抜き身の愛刀を眺めていた。手入れをするわけでもなく、何かを斬るというわけでもなく、
「……“吸い込まれるような”、とはこれのことだな」
ゴーダが“
「ガランという刀鍛冶がいなかったら……我が子を産むの同然に、いやそれ以上の
その言葉に声を返すものは、当然いない。
「ふむ……久し振りに独りになったせいか……。刀に話しかけるなんぞ、変人扱いされても文句は言えんな……ガランではあるまいし」
……。
「しかし……何なのだ? これは……?」
ゴーダが、
「気が張っているとはいえ、余りに妙だな……」
ゴーダが不思議そうに左手を見つめ、手のひらを何度か握っては開いてみる。
「……?」
どういうわけか、左手の震えはぴたりと止まっていた。
そして、代わりに今度は、右手が震える感触があった。
「……」
震え始めた右手に目をやると、目についたのはその手に持ち替えたばかりの
「……」
「……」
もう1度左手に
「……震えているのは……私の手ではない……?」
ゴーダが眉をひそめて、
「
暗黒騎士が首を
「……
震える
……。
このとき、
――。
――。
――。
物に宿るという、念にまつわる
日々生きる
ならば――。
ならば、例えば、人間の
……。
……。
……。
***
……。
……。
……。
――ああ……何じゃ……ワシは、まだ、生きとるんか……。
……。
――……ガハハ……我ながら、頑丈すぎる身体じゃわい……。
……。
――痛いのう……苦しいのう……目を開けるのも、
……。
―― 一世一代の、
……。
――ここは……
……
――ああ……この、炭の臭い……ここは、ワシの、工房か……。
……。
――まぁ……我を通しすぎて、疎まれ続きじゃったワシには……上等過ぎる、死に場所かもしれんのう……。
……。
――“我が家”で死ねるなら、
……。
――……ガハハ……。
……。
――ああ……。
……。
――えらく……疲れてしもうたのう……。
……。
――……そろそろ……眠ると……するかのう……。
……。
――……おやすみ……ワシのことは、もう……起こしてくれんでも……ええからの……。
……。
……。
……。
……ザンッ。
……。
……。
……。
――……?
……。
――……何じゃ……?
……。
――もう……ワシは、ヘトヘトなんじゃよ……起こして、くれるな……。
……。
『――――』
……。
――ええい……うるさいのう……誰じゃ、ワシの目を覚まさせるの――。
「――は……」
……。
……。
……。
「……っ……」
喉が詰まったのは、喉元を上がってきた血のせいではない。
「……たわけが……っ」
胸が苦しくなったのは、傷が痛んだからではない。
「……馬鹿もん……大馬鹿も゛ん゛……っ゛」
声が震えたのは、
「……ゴーダを……
視界がぼやけるのは、意識が
「……
……。
「……ひぐっ……う゛あ……うわあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん……っ゛!」
ただ静かに工房の土床に突き立っている銘刀“
……。
……。
……。
「……ずびーっ……。ぐすんっ……。……ガハハ……全く……お前のようなクソ餓鬼には、こってりと説教をしてやらんとな……」
痛みを通り越して、何も感じなくなっている身体を
「ほんに……手間のかかる子じゃ……おちおち、死んでもおれんわい……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます