21-7 : 落とし前
「捕まえたよ……黒い騎士……」
ボルキノフの、満足げに震える声が聞こえた。
「気が変わった……ゴーダよりも先に、まずは君を……バラバラにしてみよう……」
探求者としての好奇心と猟奇的な興奮で、ボルキノフの顔が人間ではない形に
「ああ、まずは……邪魔な手足を外してしまおう……やりたまえ」
その声に従って、
……メギッ。
「……!」
晴れ渡った空の下、
その中をさっと駆け抜ける人影があったのは、この状況から考えれば当然のこととも言えた。
「さあ……歯を食い縛れ、たわけ……」
土煙の中に、小さな2本の角がゆらりと揺れた。
腰を低く落とし、全身の筋肉を躍動させて放たれた正拳突きの風圧で土煙にさっと穴が
……ズンッ。と、拳のめり込む鈍い音がして――ガランの正拳突きの直撃を受けたベルクトが、
女鍛冶師の剛拳を打ち込まれた漆黒の騎士の身体は数十メートルも飛び、その果てで大きな岩に激突し、ベルクトは粉々に砕け散った岩の下に埋もれる格好となった。
「シィーっ……」
辺りが、しんと静まりかえっていた。静寂の中で、ガランの吐き出す息だけが聞こえる。
「……どうじゃ……ちぃとは頭が冷めたか、ベル公……」
ガランの
「……はい……ガラン殿……。……感謝します……」
「お主はそこで寝とれ……つまらん挑発に乗って、怒りで我を忘れるようなモンに、背中を預けることなぞできん」
「……面目次第もありません……」
ベルクトが、自身の醜態を恥じるようにうなだれた。
「よしよし、素直で結構。でなければワシは、本気の本気でお主の土手っ腹をもう一発ぶん殴っとるとこじゃ」
「……」
ザッ、と、ガランが地面を蹴ってボルキノフたちに向き直る。
「さてさて……いやいや、ウチの忠犬が大層な不格好を
胸の上で腕を組み、ベルクトと
「ガハハハ!……ところで、じゃ。それはそれとして……」
大きな口を開けて豪快に笑っていたガランの顔が、ふっと引き締まる気配があった。
「……ワシの作った
真顔になったガランが、何も持たぬ素手だけを前に出し、ボルキノフたちを
「……君には……余り、興味が湧かないよ、角の生えた女……」
ガランの目を真っ
「かぁーっ! 失礼な奴じゃのう! それが
ガランが不機嫌な顔つきになり、“むきーっ!”と地団駄を踏んだ。
「私が欲しいのは……あの黒い騎士と、“魔剣のゴーダ”だ。どけ、女……」
静かな
「はん! どけと言われてどく
調子よく言い放ったガランだったが、腰を落として拳を構えるその顔つきは、一切笑っていなかった。
「……ワシが邪魔なら……押し通ってみぃ……できるものならのう……」
……。
……。
……。
「その女はいらん……殺せ」
……。
……。
……。
ドッ。と、ボルキノフの
「どりゃぁっ!」
重い
その一撃は、気絶はおろか首の骨を折り、そのまま頭部を吹き飛ばすほどの威力だったが、ガランには
「……ほ! くらりともせんか、頑丈じゃのう……!」
ぶぅんと空気が押しのけられる音がして、
「だらぁっ!」
空中で身体を
残る4つの鉄球が眼前に迫ったが、ガランはその軌道を瞬時に見切り、身体を
「シッ……!」
フレイルをかわしきったガランが、
ビキリと全身の筋肉が躍動し、ガランの顔に“鬼”の形相が浮かぶ。全身の血管が赤熱し、褐色の肌の下に無数の炎の筋が現れ、火の粉がパチリと舞い、小さな角の先端に赤い火柱が上がった。
「往生せい……!」
――ズドンッ。
火を宿した拳の一撃が、
高熱となったガランの肉体が空気を
しかし――。
……。
……。
……。
……ギョロリ。
「……なんとまぁ、これでも立つとは……たまげたのう……!」
その必壊の拳の直撃を受けても
さすがのガランも、手応えを確信していた一撃が全く効いていないことに、動揺しないわけにはいかなかった。
その動揺が状況判断を鈍らせ、
「ちぃっ、まず――」
――ゴッ。
「むっ……!」
重い衝撃に、全身の骨がメシリと
どっしりと
……。
……。
……。
それは一瞬の間になされた攻防だった。両者はただ純粋に、力にものを言わせた破壊の塊をぶつけ合い、そして互いに、まだ立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます