21-6 : 怒り
“イヅの騎兵隊”が
「これは驚いた……“イヅの城塞”の脅威は、君たち騎兵隊と東の四大主だけだと思っていたのだが……まさかあんな化け物を隠していたとはね……」
ベルクトにも、
「何者だ、貴様は……使者では、ないな」
依然として全身を押さえ込まれ身動きの取れないベルクトが、辛うじて首だけを回してボルキノフを
「使者? ははは……はははは!……そんなものの
何がそれほど面白いのか、天を仰いで大声で笑い出したボルキノフの気配は、常軌を逸したものを
「ははははは! 私が誰の使者だというのかね?
「……」
「“そんな者たち”が! 詰まらん権力と武力と
“狂気”と言うには
「私はただ!
ボルキノフは余りの激情に両手で頭を
「そうする
冷たく鋭い視線を送りながら、ただボルキノフが
「人間……貴様が言うことに聞く耳など持たんが……
「ゴーダ! ああそうだ! “魔剣のゴーダ”! ゴォーダだっ! 奴が身に宿した神秘を解き明かしたい! まずは暴れないように四肢を切り落として……起きているまま腹を切り開いて……臓物を傷つけないようにひとつずつ丁寧に取り出して……背骨の一部を削り出して……頭を割り開いて――」
「黙れ貴様ぁあっ!!」
ベルクトの兜の奥で紫炎の光がギラリと揺れて、その四肢を押さえ込んでいる
「グルルル……」
そのままでは拘束を破られると察知した
「ぐっ……!……許さん……っ……ゴーダ様を侮辱したその無礼……決して……決して……! 許さんぞ、貴様ぁ……っ!」
「あぁ……君は……実に、主君思いの忠義深い騎士のようだ。すばらしい。ふむ、そうだな……東の四大主が不在となれば、君の口から彼のことについて、是非いろいろと聞かせてもらいたい」
「このベルクト……我が主に“死ね”と命ぜられて命を捨てることはあっても、忠義を売って生き恥を
「はははは! 君のように誇り高い騎士は、“明けの国”ではついぞ見たことがない! 益々興味が湧いてくるよ……」
ボルキノフが巨大な石棺を
「そうだ……君の目の前で、“魔剣のゴーダ”を少しずつ刻んでバラバラにしていったら……君は一体、どんな声で叫ぶのだろうね……」
ゾッとする寒気がベルクトの背筋を走り、“それ”の放つ超常の気配に触れた瞬間――。
……。
……。
……。
――ブチリッ。
「――――――――――っッッッ!!!!」
ベルクトは理性が消し飛び、怒りで頭が真っ白になっていた。
純粋な怒りの感情を糧として解き放たれた暴力と闘気が、ベルクトを押さえ込んでいた4体の
「――――――っッ!!!! ――――――っッ!!!!」
抜き身となった刀が、流派も型も何もなく、ただ力に任せるままに振り回された。その斬撃の嵐の
「――――――――――っッッッ!!!!」
怒りの濁流の中に理性を投げ
まるで使い方を忘れ果てたかのように、片手に
「はは……ははは……はははは! 興味深い! 実に実に! 興味深いぞ! “イヅの騎兵隊”!!」
漆黒の騎士のその
「――――――――――っッッッ!!!!」
ボルキノフの問いに答えられるほどの理性と冷静さなど、
「ベルクト様……!」
「――――――っッ!!!! ――――――っッ!!!!」
「ベルクト様ぁ!」
闘争本能に身を預け、思考を止めたベルクトが、ダンっと地面を蹴る音が聞こえた。踏み込まれた地面が
「……すばらしい……」
……。
「……すばらしいぞ……黒い騎士……!」
……。
「……だが……だがね……」
……。
「こちらも、それ相応の準備を……戦争を……死を、積み上げてきた……“材料”を、集めに集めた……」
……。
「ひ弱な人間の赤い血を煮詰めに煮詰めて……その高みへと届き得るほどにね……」
……。
……。
……。
「……」
ボルキノフの前に、1体の巨漢の赤騎士が立っていた。顔の前で腕を交差させたその戦士は、ボルキノフと石棺を
「――――――っッ!!!! ――――――っッ!!!!」
更に強い激情を
「……」
しかし、結果は変わらなかった。その
「――――――――――っッッッ!!!!」
――ガシッ。
理性を捨て去った力任せのその刀の軌道を見切ることは、
尋常ならざる腕力が、怒りに我を忘れた漆黒の騎士を完全に捕らえる。
「捕まえたよ……黒い騎士……」
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