21-3 : “イヅの騎兵隊”
歯車が重い音を立てて鎖を巻き上げ、“イヅの城塞”の門扉がゆっくりと開かれていく。外界へと開け放たれていく門から差し込む陽光を浴びて、漆黒の
「……言うまでもないが……」
隊列の先頭に立って口を開いたのは、漆黒の騎士ベルクトである。
「ゴーダ様が我らにこの城塞を預けて北へお
『……』
騎兵隊の沈黙が、ベルクトの声にどんな言葉よりも強い肯定を返す。
「“宵の国”の地を侵す者へ
そして
「全騎、我に続け――出撃」
『オォー!』
寡黙な騎士たちが一斉に勇ましい声を上げ、ボッという小さな音と供に105対の眼に紫炎が宿った。
「重装騎馬隊、前へ」
黒塗りの重装鎧で全身を包んだ34騎の騎馬たちが太く低い声で
「疾走歩兵隊、続け」
ベルクトを含めた残る71名の騎馬を持たぬ漆黒の騎士たちが、全身
ビュンッ、と風が渦を巻く音がしたかと思った途端、城塞正門から疾走歩兵隊の姿は消えていた。紫炎の眼光の残像を空中に引き、目にも止まらぬ速度で疾走した歩兵たちはあっという間に先発していた重装騎馬隊に追いつき、そこまで来て両者は互いの速度を合わせて併走を始め、見る見るうちに105騎から成る陣形を形作っていった。
対する
真紅の騎馬たちの後ろを、残る300体の
その光景の最も異様な点は、真紅の騎馬たちの後ろを走る
「……ただの人間ではないようですね……全騎、気を引き締めてかかれ」
“イヅの大平原”を真っ
『御意』
広大な“イヅの大平原”の中心で、両者が互いの姿を目視できる距離にまで接近する。
「包囲陣から一気に畳みかけます。まずは重装騎馬隊の突入口を開く……切り込み隊、前面へ」
『承知』
“イヅの騎兵隊”の陣形が疾走の中で流れるように形を変え、重装騎馬隊の前にベルクトを先頭とした10名の疾走歩兵隊が出る。
「抜刀、構え」
最前列に横一列に展開した切り込み隊が、
それ以上の合図は不要だった。漆黒の騎士たちは互いが互いの呼吸に合わせ、まるでひとつの意思で動いているように振る舞う術に
ベルクトの眼光が一際強く紫炎を燃えたぎらせた次の瞬間、掛け声も目配せも何もなく、最前列の切り込み隊が一斉に全力の疾走を解き放ち、姿を消した。
『――“疾走抜刀技:
疾走の勢いを乗せた不可視の抜刀剣技が全くの同時に放たれ、次に切り込み隊が姿を現したのは、敵陣の真ん真ん中であった。
ベルクトたちの背後で、陣形の崩れた“特務騎馬隊”の先頭に重装騎馬隊が
唐突に現れた真紅の敵への初撃は、
「……」
ただ、頭の片隅に引っ掛かる、不穏な気配を除いて。
「……負傷者数は」
敵陣の真っ
「3名ほど。戦闘継続に支障はありません」
「該当者は敵陣が立て直す前に陣外へ下がり、包囲陣に合流。手負いになってまでこちらに付き合う必要はありません」
「承知」
数人の騎兵が敵陣の
ベルクトが地面にちらと目をやると、そこには不可視の疾走中に
「……やはり、侮れませんね」
何体目かの
「ベルクト様!」
それからほどなくして、敵陣を重機のように切り分けて重装騎馬隊がベルクトたち切り込み隊の前に姿を現した。
「このまま一気に駆け抜けます、お乗り下さい!」
「了解しました。切り込み隊全騎、重装騎馬隊に合流。敵陣後方へ抜ける」
『はっ』
重装騎馬隊は全く速度を落とすことなく切り込み隊の真横を駆け抜け、ベルクトたちは俊足の脚力で
「敵陣、間もなく抜けます」
ベルクトが飛び乗った重装騎馬の手綱を握る騎兵が言った。
「見くびれない手合いです。敵陣を抜けると同時に仕掛ける」
「承知しました」
そしてその会話が終わるか終わらないかというところで、重装騎馬が敵陣最後尾の
再び言葉も合図もいらぬ連携戦術が“イヅの騎兵隊”をまとめ上げ、重装騎馬隊と随伴していた切り込み隊とが一斉に騎馬の上から跳躍する。
高く跳び上がった漆黒の騎士たちは空中で納刀し、体勢を整え、着地するより
“特務騎馬隊”の前方側を包囲していた疾走歩兵隊も、ベルクトたちに合わせて抜刀動作を既に取っている。
そしてベルクトが地面に着地する刹那、紫炎の眼光がぎらりと光り――。
『――“跳躍抜刀陣:
一切の動作はおろか、呼吸も心拍も全てが同期した105名の“イヅの騎兵隊”が、必殺の集団剣術を放った。
……。
……。
……。
「何という一糸の乱れもない集団戦だろうね……ははは……なるほど、すばらしい……」
……。
……。
……。
「……手間が、省けるよ……」
……。
……。
……。
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