20-4 : “石の種”
「……」
――魔法院“第6室”。サリシスの個人研究室。
ゴボリ。と、ランプの
その試験管の中に充填された液体は、それ自体が蛍光色に発光する性質を持っているようで、ランプの
実験用の薄手の革手袋を両手に
ゴボリ。
そしてその試験管の中心には、小指の先ほどの大きさの、ゴツゴツとした表面をした小石のような物がふわふわと上下に浮き沈みしながら漂っていた。
「……」
糸目をうっすらと開き、その小石のような物体に真剣な眼差しを送っているサリシスが、2本目のスポイトに持ち替えて薬液をゆっくりと
1滴。
試験管を満たす液体の蛍光色が、更にはっきりとした青白い光を放ち始める。
2滴。
青白い光は目を焼くような強い白色に変わり、その中に漂う物体の影がはっきりと浮かび上がった。
そして、3滴目の薬液が
「う……っ!」
その反応を目にすると同時に、サリシスはそれ以上薬液が試験管に滴り落ちないよう、反射的に手に持っていたスポイトを投げ捨てた。床に落ちたスポイトがパリンと軽快な音を立てて砕け散り、飛び散った薬液が染みを作った。
「まずい……!」
焦燥した声を漏らしたサリシスが、試験管の中に漂う物体を取り出そうと、革手袋を
「ぐっ……!」
その指先が液面に触れた瞬間、ジュッと革手袋が
そしてサリシスがただ
「……くそっ!」
サリシスが、思わず感情的な声を出して、実験机の上に拳を
「これで、2度目の失敗、か……」
組み合わせた両手に額を押しつけて、サリシスは誰にも見せたことのない感情的な表情を浮かべた。無意識に顎に力が入り、強く
「文献も、試料も少なすぎる……! しかし、彼女の病を完治させ得るものは、これしかない、これしかないんだ……“石の種”しか……!」
実験に失敗したショックに打ちのめされながら、サリシスが震える手を伸ばし、何重にも鍵のかけられた
金属の箱を開けると、内部には真綿が引き詰められていて、そこに作られた5つの
真綿の上に赤子のように丁寧に置かれた“石の種”に冷たい視線を向けながら、サリシスが短く自嘲の笑い声を漏らす。
「こんな物1つに、金貨千枚、か……。“第2室”め、5個しか現存しないとはいえ、暴利もいいところだ……」
……。
……。
……。
――ドンッ。
サリシスが机の上に拳を
「……金貨5千枚だろうが、1万枚だろうが、幾らでも言い値で積んでやるさ……彼女を救う
しかし、それは
その可能性を現実のものとするか、それとも
これまでにサリシスが挑んだ“石の種”の変質実験は、2回。そしてその2回ともで“第6室長”は失敗を犯し、有意性のある結果もデータも、ほとんど何も得ることができずにいた。得たものと言えば、朽ち果てた2個の“石の種”の残骸と、無力感だけだった。
「僕は……こんなにも無力だ……」
打ちひしがれたサリシスが、白く長い髪の毛を
「魔法院の権威なんて、どうでもいい……。積み上げられてきた研究の歴史なんて、
ランプの
無力感と、不安と怒りと焦燥で、目の前の景色が渦を巻いた。サリシスは硬く目を閉じて、眠ることさえできず、
「――■■■■」
ほとんど無意識の内に、サリシスの口から言葉が
……。
……。
……。
「……サリシス様?」
そして気力を失っていたサリシスの耳に、懐かしい“彼女”の声が聞こえた。
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